高等学校学習指導要領案

高校理数科も脱・ゆとり、裁量で高度授業も…指導要領案
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081222-00000061-yom-soci

教科別では、理科と数学、英語で「脱ゆとり」を鮮明にした。理数の現指導要領では、「因数分解は複雑なものに深入りしない」「素粒子研究が宇宙の始まりの研究と結びついてきたことには簡単に触れる程度とする」−−などの歯止め規定が目立ったが、これを全廃。学校や教師の裁量で高度な学習に踏み込むことを可能にした。

まずこの記事についてふれてみます。もともと高等学校の現行課程では、理数科目の内容はそれほど削減されていませんでした。むしろ中学校の課程から移行した内容が多いので、科目によっては過剰気味ですらあったのです。というわけで「ゆとり」という現状はあまりなかったのですが、それでも「脱ゆとり」という方向で記事を書くという方針だったのでしょう。記事中の「ポイント」という表の「数学IIIの単位が3から5に」という部分も、考えてみると次期課程では数学C(現行2単位)がなくなったため合計単位数に変化がないので、単なる科目統合に過ぎず(しかも従来学習していた「行列」はなくなっている)、「脱ゆとり」などとは全く関係ありません。こういうところで私は、「ちゃんと調べて記事書いてほしい」と思うのです。
 
それはさておき、文部科学省が発表した高等学校指導要領案をみてみます。
関係資料

1.数学

まずは統計分野の内容が増えています。文科省

統計に関する内容を充実し,統計活用力を育成

とうたっているとおりです。ただ、統計分野って、高等学校数学の内容のうちでは少し異質の分野で、数的思考を問うというよりは手法の定着が問われるところです。そのためかつての確率・統計が「数学でもっともつまらない科目」といわれたりしたところです。しかもその内容も、「データの分析」が数I、「統計的な推測」が数Bとなっていて、おそらくそれほど深いことはできないでしょう。現行では統計(正規分布・推測)は数学Cに属していましたが、これが数Bとなると数IIIの微積分を習う前に統計を扱うことになるので、二項分布による近似という程度しか扱えないでしょう。
いっぽう線形代数では、内容が増えているとは言い切れないです。文科省では「内容の系統性を一層重視」ともうたっていますが、少し検討が必要でしょう。複素数平面が復活しましたが一次変換は相変わらず高校範囲ではなく、また行列も「数学活用」で(文字通りの「行と列」ですからおそらく従来のものとは異質)簡単に触れる程度です。現行課程でも行列はそれほど深く扱わない(発展性の少ない分野)なのですが、それも扱わないとなるとベクトルの位置づけが幾何の領域に偏ることになるかもしれません。
その複素数平面ですが、数学IIIに位置付けられているようです。これでは、脱ゆとりとか昔に戻したとはいえないです。設置科目が類似している旧課程(平成元年告示)と比較してみますと、
 
旧課程:II・B 複素数平面
    III・C 微積分、行列、二次曲線
新課程:III 微積分、複素数平面、二次曲線
 
となり、新課程では複素数平面と行列が先送り移行の形で繰り上がっているのがわかると思います。
全体的に見て、数学では現行課程の内容がある程度中学校などに戻されているのに対して、復活する単元が少なく、量としては減っている印象もあります。歯止め規定がなくなったとはいえ、それで増える学習内容は「ヘロンの公式」や「二次分数関数」というように「それぞれの単元で扱う内容が深くなる」わけであり別の単元を教えられるというわけではないですから、もう少し学習単元数は増やしてもいいかなという気がします。この指導要領に従って高等学校の学習内容を、実質的に学習内容が増える小中学校とつりあいをとるために増やすとなると、扱う式が複雑になったり公式が増えたりする方向になるのかな、とも思えます。微積分の分野ではそれでいいのですが。