営業キロの話・JR東日本

JR東日本営業キロといえば、よくいわれるのが「1種なき2種」と「短絡線」の問題です。いずれも、東京近郊にはデルタ線が多いという事情があります。ここでは、山手線関連デルタと武蔵野線関連デルタについてみてみます。

1.山手線・東北線関連デルタ

山手線・東北線と連結する路線のうち、小さいデルタを形成するのは次のとおりです。
 1総武線錦糸町秋葉原〜東京〜錦糸町
 2中央線(御茶ノ水〜神田〜秋葉原御茶ノ水
 3常磐線三河島〜日暮里〜田端〜三河島
 4東北線駒込〜田端〜上中里駒込
 5品鶴線(西大井〜品川〜大崎〜西大井)
このうち、1、2、3は「全て独立路線」タイプです。ここでは4と5を詳しくみてみます。
4は、駒込〜田端操が「キロ設定のない短絡線」で「田端駅構内扱い」、
5は、大崎〜西大井が「キロ設定のない短絡線」で「品川駅構内扱い」です。
 
開通の経緯をみると、1から5まで全て、デルタ各区間の開通時期が別々になっています。つまり、最初からデルタだったわけではなく、またデルタとして連結されたわけでもないのであり、いうならば、ふたまた分岐ができたあとで3つめの辺が開通してデルタが成立したということになります。では、1〜5のうち、最後に開通した路線をみてみます。
 1 東京〜錦糸町 :旅客線 開通時に営業キロ設定・線路名称公告に記載
 2 秋葉原御茶ノ水 :旅客線 同上
 3 三河島〜日暮里 :旅客線 制定時の線路名称公告に記載
 4 駒込〜田端(操) :貨物線 開通時に営業キロ設定なし・告示なし
 5 大崎〜蛇窪(信) :貨物線 同上
5については、以前(id:ameni:20061001)書いたとおり、鉄道省年報にキロ程が記載されていますが、告示等はありませんでした。それより前に開通していた品鶴線では、線路名称公告への記載はなかったものの開通の告示はあったわけですから、大崎〜蛇窪については、当初から独立区間とみなす意思がなかったことになります。
4については、山手線の線増扱いのようで、開通の告示等はなく、鉄道省年報でも「改良工事は足場撤去等を除いて完了」とあるのみです。つまりこの区間はすべて山手線(あるいは田端駅/操車場)の一部であることになります。
 

2.武蔵野線関連デルタ

武蔵野線と連結する路線のうち、小さいデルタを形成するのは次のとおりです。
 6中央線(国立〜西国分寺〜新小平〜国立)
 7東北線(与野〜西浦和武蔵浦和〜別所(信))
 8常磐線(馬橋〜南流山北小金〜馬橋)
 9京葉線西船橋市川塩浜〜南船橋西船橋
このうち、9は「すべて独立路線」タイプです。それ以外をみてみます。
 6は、新小平〜国立が「1種なき2種」、
 7は、武蔵浦和〜別所(信)が「キロ設定のない短絡線」、
 8は、馬橋〜南流山および南流山北小金が「1種なき2種」です。
 
ここでも経緯をみると、山手線デルタと異なり、6〜8の全ての区間武蔵野線開通として、同時に開通しています。というわけで、開通当時の状況をみてみます。
昭和48年3月10日日本国有鉄道公示第414号には、「武蔵野線」として、上の6〜8の短絡線のうち、武蔵浦和〜別所(信)以外はすべて貨物線として掲載されています。また、線路名称公告では、東海道線の部に「武蔵野線 府中本町・新松戸間及び貨物支線」となっており、この「貨物支線」には公示414号で挙げられている区間が該当するものと考えられます。
となると問題点は、なぜ一区間だけ短絡線扱いなのかということと、なぜ1種なき2種とそうでない1種区間とがあるのかということです。
まず前者(武蔵浦和〜別所(信))です。武蔵野線開通当時には、武蔵浦和駅は開業していませんでした(駅開業は埼京線開通の時点)。となるとこの区間は、もし別線としてしまうと区間が与野〜南浦和となり、既存の東北本線区間と同一となってしまいます。このあたりの事情は、その線形も含め、上述4の山手線とよく似ているところです。おそらくここを通過する場合は、西浦和経由とみなしたのでしょう。
そして後者(与野〜西浦和)です。JR東日本が発足した際に、営業キロがあった武蔵野線短絡貨物線は、与野〜西浦和を残して1種の営業キロを設定されませんでした。おそらく、JR東は貨物短絡線経由の運賃計算を認めないという方針だったのでしょうが、そうなると逆にこの区間だけ残ったというのがよくわからなくなります。ただ考えてみると、このデルタのうち1辺はすでにキロ設定のない短絡線扱いになっているわけです。そうなると、さらにこの区間もキロを設定しないとなると、両線ともどこかの駅の構内扱いとなってしまい、どの駅だとしても困難だということになります。たとえば西浦和駅扱いとなると、東北本線の上に西浦和駅があることになってしまいます(当該区間東北本線との連結地点までを西浦和駅扱いにしないと、宙に浮く区間ができてしまいます)。また南浦和駅扱いとすると、こんどは武蔵浦和をはさんで南浦和を2回通過するケースがでてしまいます。上の例8では、デルタのうち2区間がJR東の営業キロを与えられていませんが、これは両区間新松戸駅扱いにするとしても問題が生じないからでしょう。それに与野〜西浦和は、駅の一部とみなすにはやや長すぎる感じもします。というわけで与野〜西浦和区間だけ、営業キロが与えられたのだと思います。
 
というようにみてみると、営業キロなし短絡線やら1種なき2種やらが入り混じるJR東も、実はある程度の合理性と法則性に従っているのだな、という気もします。
1.路線の起点・終点は駅であり、駅間での路線名の重複を認めない。
2.そうなると信号場を含めた路線重複は認めることになる。(さもないと路線が信号場で途切れることとなる)
3.デルタ状の短絡線を別線とするという扱いはできるだけしない。交差部分に駅があればその一部分として、デルタは「ふたまた+構内短絡線」とする。
4.それで営業キロが書類上増えて運賃が上がる場合は、例外として値上げを避ける。
というところでしょうか。
本来は3.のルールで統一したかったところでしょうが、だからといっていまさら御茶ノ水秋葉原間を神田経由にするわけにもいかず、またJR貨物にも値上げを強いることは避けたかったのかもしれません。いままで私は「1種なき2種」には批判的だったのですが、ひょっとすると、これはこれで筋が通っているのかもしれません。