鹿児島本線外浜線・田野浦公共臨海鉄道

どうも最近、瀕死状態の貨物線の話題ばかり扱っていますが、今回もそれです。
鹿児島本線は、門司港から鹿児島方面へ向かうJR九州の路線です。その一方で、門司港から外浜までの1キロほどの貨物線もあり、こちらはJR貨物の路線です。ところがこの路線が現在、営業を休止しており、貨物列車は走っていません。でもって、外浜駅から先にまだ線路が延びており、これが北九州市保有している路線になっています。阪和連絡線と越中島貨物線の両方のパターンですね。

さて、門司港〜外浜について、ウィキペディア鹿児島本線http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B9%BF%E5%85%90%E5%B3%B6%E6%9C%AC%E7%B7%9A)の記述を拾ってみます。
なお、「路線データ」で「電化区間:全線(交流20,000V・60Hz)」と書いてありますが、外浜線は非電化です。

1930年(昭和5年)4月1日 貨物支線 葛葉〜外浜間開業。葛葉駅開業。
1986年(昭和61年)11月1日 葛葉駅廃止。門司港駅に統合。
2005年(平成17年)10月1日 門司港〜外浜間の貨物支線休止。2003年3月より列車は運行されていなかった。

門司港駅 - (貨)外浜駅
開業時は現在の門司港〜小森江間にかつてあった葛葉駅(貨物駅)が起点。
2005年10月から路線休止となり、踏切や信号機などの関係設備は全て黒のビニールで覆われている。また、踏み切り部から線路内へは立入禁止の措置がとられている。

これだけではよくわからないので、ウィキペディア・外浜駅(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%96%E6%B5%9C%E9%A7%85)をみてみます。

1929年(昭和4年)2月13日 - 門司築港(1944年に門築土地鉄道に改称)が外浜駅〜門築大久保駅間(1.5km)を開業
1930年(昭和5年)4月1日 - 鹿児島本線葛葉駅〜外浜駅間(0.9km)が開業
1960年(昭和35年)4月15日 - 門築土地鉄道線が廃止。市営田野浦公共臨海鉄道として当駅の側線扱いに。
1987年(昭和62年)4月1日 - 国鉄分割民営化により日本貨物鉄道が継承
2004年(平成16年)3月25日 - 貨物列車の運行が無くなる。
2005年(平成17年)10月1日 - 路線休止により営業休止。

これでもよくわかりません。第一、この記述だけだと、現在どこからどこまで線路が延びているのかわかりません(駅を解説したページなので仕方がないのですが)。
現在は、門司港駅〜外浜駅間がJR貨物の路線であり、そして外浜駅〜田野浦間が北九州市の路線です。ところが、北九州市の施設であるこの区間は、鉄道事業としての扱いの上では、JR外浜駅の構内側線なのです。「側線」といっても公道と交差する踏切もあり、長さも3〜4キロあるわけで、ちょっと妙なのですが、実はこれは、北九州市側の不手際に起因するのです。
門司港レトロ事業として観光列車を走行させる計画が検討される際に、北九州市の鉄道事業免許がなかったことが問題となりました。この件に関しては、市議会でも取り上げられているのが確認できます。結局、この区間を外浜線の一部とすることで、免許の取得は必要なくなりました。1999年5月のことです(ですから、ウィキペディア・外浜駅の記述は不正確です。この区間は、1960年の時点では独立した路線でした。)。 
というわけで、現在の状況は次のようになります。
門司港―(JR貨物)―外浜―(外浜駅構内扱い)―田野浦
 
では、資料をみてみます。
昭和37年の鉄道敷設法改正(昭和37年法律第131号)で、この路線の延長が計画されました。

別表第110号ノ3の次に次の一号を加える。
 110ノ4 福岡県田野浦附近ヨリ曽根ニ至ル鉄道

「曽根」は、日豊本線下曽根駅です。これが開通すれば、門司の半島部分が鉄道で一周することになりました。結局開通はなりませんでしたが、しかしこうなると、環状路線部分の一部だけが市営ということになるので、不便でした。
 

第29回国会 参議院運輸委員会 第4号(昭和33年9月10日)
○理事(江藤智君) 第一に、港湾局の方にお尋ねしたいのですが、視察報告に申し上げたように、門司港の田野浦埠頭に入る臨港線の途中に私鉄の線路が一部あるために、そこで貨物運賃がまた別に取られるものだから、非常にその臨港線の運賃が高くなる、そのために、せっかく一万トン埠頭ができているにかかわらず、ほとんど陸上の臨港線は使用されておらない。非常にこれはもったいない話で、何とか一貫輸送をして、普通の港湾と同じような運賃で臨港線が使用されるようにしなければいかぬと考えるのですが、これについてどういう処置をとっておられますか、お伺いしたい。
○説明員(東寿君) お答えいたします。あの田野浦埠頭の所が、現在の計画で約二百万トンぐらいのものが計画されるようになっております。現在一万トン級が約二バースございます。さらに、先ほどの御報告にありましたようなセメントの専門輸出埠頭として約八十万トン程度を予定するような計画を立てている。従って、これに対する臨港鉄道の問題が、お知りのような問題になるわけですが、あれを複線化いたします計画をいたしております。従って、あの私鉄を買収いたしまして、さらに、それを複線に増強いたすわけであります。これに要する費用は、今度の特別会計の中に、普通の臨港鉄道として一貫するものとして、あの中に計画をいたしております。従って、特別会計が成立いたしますと、この問題は解決し得ると思うのです。
○理事(江藤智君) もうちょっと聞きますがね、複線にすることも非常にけっこうだけれども、あるいは特別会計という、これは何とか作らにゃいけないとまあお考えでしょうが、しかし、それをもっと単線のままでも、今のようなことでほうっておくということは非常に問題じゃないか、もし特別会計ができなかった場合には、やはり何か買収するというような方法は、予算面で考えられませんか。
○説明員(東寿君) ことしの予算で約二千万だったと思いますが、一応予算をつけているのです。それは港湾法におきますというと、建設改良をいたしますので、買収ということはちょっと法の適用範囲外になるわけです。従って、予算措置になりまして、特例を必要といたします。そういうようなところで、多少疑問を生じております。当然管理者である門司市がこれを買収いたしまして、それに対して改良なり施す場合に、港湾法としてはこれに予算措置ができるのでありますが、管理者の買収がまだその時期に達しておりませんので、今のところではそのような状態でとどまっているわけであります。その点特別会計でしますと、一挙にそれを解決できるわけなんであります。

ここにもあるとおり、田野浦線は、本来国鉄が買収する方針でした。しかし結局、市営の設備となったのです。
 

日本国有鉄道経営再建促進特別措置法施行令(昭和56年政令第25号)
別表
52 鹿児島線 門司港から熊本を経由して鹿児島港まで及ぴ小倉から博多まで並ぴに門司港から分岐して外浜まで、葛葉から分岐して門司埠頭まで、黒崎から分岐して黒崎港まで及び香椎から分岐して福岡市場まで

外浜線の起点が門司港になっています。ところで、ウィキペディアによると、この区間が開業したときは「葛葉〜外浜」間でした。でもって、葛葉駅の廃止は昭和61年ですから、この施行令が公布された時点では「葛葉から外浜まで」のはずなのですが、なぜか起点が門司港駅に変わっています。
 
臨港交通施設・鉄道 (北九州港 港湾施設概要)
http://www.kitaqport.or.jp/jap/ct/sisetuitiran/12tetudou.pdf

名称      位置
田野浦鉄道 門司区大字門司〜田野浦海岸 6194.99(m)
新浜鉄道  門司区東港町  290.00(m)
         (平成19年4月1日現在)

この区間が「休止線」であって廃止ではない、というのがよくあらわれています。ここでは、「新浜鉄道」というよくわからない路線が記載されています。
 
この区間は倉庫などの古い建築物が間近に見えるということで、観光列車の運転が計画されており、平成19年度にも市は予算を組んでいます。休止貨物線の転用としては理想的ではあるのですが、しかしここの場合、幹線道路との平面交差もあまりなく、また周防灘という自然に恵まれた位置にあり、そのうえ門司港ですから歴史的建造物にも恵まれているわけですから、これはどこででも使える方式というようでもなさそうです。

北九州市議会会議録 平成11年6月定例会第2回(6月3日)第1号
◎企画局長(久保公人君) 門司港レトロ観光列車は、レトロ地区と和布刈地区とを結節して回遊性を高めますとともに、レトロ列車自体が動くアトラクションとして門司港レトロ観光の目玉になりますために、実現に向け採算性などの検討を進めてきたところでございます。今回、田野浦臨港鉄道の免許問題が解決しましたことで、門司港レトロ観光列車の実現が一歩前進したことは確かでございます。このことから具体的に線路所有者でありますJR貨物や市の港湾局、旅客鉄道事業を運営しておりますJR九州、鉄道事業免許の許認可省庁であります運輸省などの関係機関と協議に着手できることになったところでございます。
 今後、旅客輸送に必要な駅施設や信号、保安施設、電気施設、土木施設などの整備費用の算定、そしてその整備費用と海峡ロープウエーなどの利用者を考慮した具体的な需要予測、鉄道事業免許取得のための申請資料づくりや整備及び運営を行う事業主体の決定などを行うことにいたしております。

第三種免許を取得していなかった(これについてはJR貨物も運輸省も指摘しなかったので、そちらの不手際のほうが大きいようにも思えます)ために全線が貨物駅の一部となるという運命をたどった田野浦線ですが、再度脚光を浴びるのでしょうか。