指導要領

先日(id:ameni:20070918)の続きです。
中教審の小中学校理科部会が『現在は中学で学んでいる「太陽と月」は小学で学ばせる。』と検討している、という報道がありました。それに対して私は、月は中学校ではなくむしろ小学校で学ぶのではないか、という疑問を先日書きました。

これについて、文科省が検討素案をアップさせたのでみてみると、以下のようになっています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/siryo/004/07092711/004_1.pdf

理科の現状と課題、改善の方向性(検討素案)
(ウ)「生命・地球」については,児童が生物の生活や成長,体のつくり及び地表,大気圏,天体に関する諸現象について観察やモデルなどを通して探究したり,自然災害などの視点と関連付けて探究したりすることについての指導に重点を置いて内容を構成する。また,「生命」や「地球」といった科学の基本的な見方や概念を柱として内容が系統性をもつように留意する。
その際,例えば,自然の観察,人の体のつくりと運動,太陽と月などを指導する。また,現行で課題選択となっている,卵の中の成長と母体内の成長,地震と火山はいずれも指導する。

どこにも『現在は中学で学んでいる「太陽と月」』なんて書いていません。しっかりしてください産経ウェブ。教科書読むか学校教員に聞けばすぐわかることですよ。
 
さて、それはともかく、詳細な検討素案が出たので、前に私が書いた理科改訂内容の予想(id:ameni:20070920)を見直してみます。基本的には私は「それほど実際の授業時間が増えるわけではないので学習内容もあまり増えない」という方向で考えています。
(1)天文分野
検討素案では、中学校で「月の動きと見え方」を扱う方針のようです。現行では中学校では月は扱わないので、新出分野となります。旧課程では月表面のようすを扱っていましたが、そこまで踏み込むかは微妙です。そして小学校で習うこととなる「太陽と月」との差異も明らかではありません。おそらく、現行の内惑星の見え方と同じような扱われ方をするのでしょう。
高等学校では、現行では「地学I」「地学II」という科目であるのが「地学基礎」「地学」という科目になるようですが、「地学基礎」は「実社会・実生活とのかかわりを重視」となっていますから、天文分野の学習内容はそれほど増えないと思います。その一方で「地学」(現行の地学II)では、それ以前の学年の学習内容が増えたことにより、ある程度深い内容まで扱われることになることになるかもしれません。あるいは、現行でも天体の放射や宇宙の膨張など、深い内容に触れているわけですから、これ以上は学習内容が増えないのかもしれません。
(2)電磁気分野
小学校では「エネルギー」「粒子」の概念を柱とする、としています。とすると、電気から運動、電気から熱といったエネルギー変換を扱うこととなり、モーター、発熱が新出単元となることになります。いずれも旧課程では扱われていた範囲ですので、復活ということになりそうです。
中学校では、電力量や仕事率を扱うことになるようです。エネルギーを実際に計算させることになるかもしれません。小学校の電磁気分野ではそれほど増えない計算問題が、ここでは多くなるようです。
高等学校では、天文分野と同様、現行の「物理I」「物理II」という区分が「物理基礎」「物理」という区分になります。物理基礎では「物理現象とエネルギー」を扱うということになっていますから、電磁気学はここに収まることになりそうです。ただ、中学校で習うこととなるエネルギーとの差異は、はっきりしません。現行でも、エネルギー概念については中学校と高等学校(「理科総合」と「物理I」)にまたがっていたわけです。おそらく、現行の物理Iの「生活と電気」「エネルギー(電流回路と電気エネルギー)」の範囲が、物理基礎に収まることになると思います。
(3)高等学校数学
ちょっと気になって見てみたのですが、また科目区分が変更されているようです。「数学I〜III」「数学A〜B」「数学活用」となっています。「数学活用」が現行の「数学基礎」に対応していて、でもって、現行の「数学C」がなくなっているようです。Cで扱っていた二次曲線や行列はどこで扱うのでしょうか。
でもって、今回の素案でもやっぱり、ベクトルや行列はオプション科目扱いのようです。関数分野が二次関数〜指数・対数・三角関数微分積分へと連続的に配列されているのに対して、線形分野は現課程ではベクトル〜行列〜一次変換へと段階的に学ぶことが保障されていません。旧々課程の教科である「代数幾何」の各単元が、その後細切れになってしまっていて、それが今回の素案でも引き継がれているのが気になるところです。