化人幻戯

ttp://d.hatena.ne.jp/jun-jun1965/20070715(猫を償うに猫をもってせよさま)

 最近、人物略歴を見ていて、「東京都生まれ」と書いてあるのが、気になる。東京府が東京都になったのは、1943年、つまり戦争の最中だ。だから、それ以前に生まれた人は、東京府、あるいは東京市生まれである。なのに、それ以前生まれの人が「東京都生まれ」と書いてあるのだ。

まあ確かにそれはそうなのですが、ただ、出生時名称基準説は、生まれてから後で行政区域が分割されたときに、不便なのですよ。きょうだいで「生まれ」が変わることにもなりますし。

たとえば、東京都板橋区から1947年あたりに練馬区が分離しました。ですからそれ以前に生まれた練馬の人は「板橋区生まれ」と言うことになるはずです。しかしそう言うと現在の板橋区をイメージされてしまいますから、行政区分ではなく地域として「練馬生まれ」と言うことになります。ただ、石神井のあたりは練馬区になるまでは「練馬」ではなかったわけですから(このあたりの事情は、例えば「埼玉県」の区域の大部分がもともと「埼玉」(埼玉郡)ではなかったのと似ています)、「練馬生まれ」というのも妙な話です。
 
とはいうものの、「満州生まれ」という言い方が自然で「中国東北部生まれ」ではない(「中国」という国家の領土で生まれたわけではない)という考え方も理解できます*1。現在名称基準説は、現在は存在しない行政区分のときは不自然なんですよね。「東京都生まれ」のように。
スッキリする解決方法としては、行政区分ではなく地域名を使うというものがあります。ただこれも難しくて、「東京生まれ」ならともかく、上の石神井の場合は「石神井生まれ」と言うことになってしまって、わかりにくくなってしまいます。あるいは「板橋区(当時)生まれ」とでも言いますか?
 
そういえば、別冊宝島江戸川乱歩が扱われているのですが、ポプラ社の少年向けのものは、「麹町区」「京橋区」という当時の地名がことごとく「千代田区」「中央区」という現在の地名に書き換えられているのです。このような書き換えには賛否両論あり、おそらく「原作の味わいが失われる」という批判のほうが強いです。特に、「白い羽根の謎」や「時計塔の秘密」のように、まったくのリライト(「時計塔の秘密」などは乱歩の時点で涙香のリライト)に対してはいろいろと議論があるようです。私などは、やっぱり子どもの時に読んだだけあって、リライトのほうが印象が強いですけれども。
 
しかしウィキペディアでは、

初執筆は江戸川亂歩と書いた。

と、妙に漢字にこだわっていますが、

ファンにサインを求められると必ず色紙に「うつし世はゆめ よるの夢こそまこと

とあります。私が見たのも、春陽の文庫版に収録されている色紙も、「ま古と」ですよ。

*1:こう言うと「じゃあ返還前に沖縄で生まれたらアメリカ生まれと呼ぶのか」とか言われるのですが、海外領土や植民地などの場合はふつうはその地域名を名乗ります。「フランス領ギアナ出身」とか「香港生まれ」とか。