学校教育での天文学の扱い

前回(id:ameni:20060501#1146415048)のつづき。

(3)高等学校での学習内容

現行課程では天文分野は、理科基礎、理科総合B、地学I、地学IIでそれぞれ扱います。
ということは*1、理系生徒でもこの分野を全く学習しないということがあります*2。いわゆる総合的理科*3では、科学史学習や自由研究のような学習方法で理科を学びます。ですから、教科書は読みやすい一方で、試験対策は重要事項の記憶が中心になりがちです。
 
■天体の運行
現行課程では、惑星・天体の軌道と天動説・地動説の関係について理科基礎で学びます。旧課程では、天体の運行と時間・暦との関係について地学IAで学び、地球の自転・公転の影響について地学IBで学びます。旧々課程では、地球の自転・公転の影響について理科Ⅰで学びます。いずれも、高校理科の導入的内容という側面が強く、定性的な(むしろ雑学的な)レベルにとどまっています。楕円について学んでいない状態では実際の惑星軌道計算をするわけにもいかない点も考慮すると、地学の導入として天体の運行を扱うに際して、内容がこのレベルにとどまるのは、やむをえないのかもしれません。
 
■太陽系惑星
現行課程では、太陽系惑星のそれぞれの性質について理科総合Bで学びます。旧課程・旧々課程では中学校の履修内容のため、高等学校ではこの分野を扱いません。
 
■太陽と核融合
太陽の形状・活動と核融合について、現行課程では地学Iで学び、旧課程では地学IBで学び、旧々課程では地学で学びます。いずれの課程でも、太陽活動とその地球への影響、そして核融合の概略について学ぶという点では大差がありません。
 
■恒星
現行課程では、恒星の性質と進化を地学Iで学び、恒星の放射を地学IIで学びます。一方、恒星の性質と進化、恒星の放射の両方について、旧課程では地学IBで学び、旧々課程では地学で学びます。
この分野について、現行課程ではHR図を用いて概略を扱うにとどまるのに対して、旧課程や旧々課程では、ある程度を中学校で既に学習していることもあって、宇宙論とも関連させて比較的深い内容まで学習します。
 
■銀河・宇宙論
現行課程では、銀河系の構造、宇宙の構成・膨張について地学Iで扱い、天体の距離と質量、銀河の分類、宇宙の構造・ハッブルの法則について地学IIで扱います。旧課程では、銀河系の構造と恒星・星間ガスの分布、銀河の形状と距離、宇宙の進化について地学IIで扱います。旧々課程では、銀河系・宇宙の構造や形状、宇宙論について地学で扱います。
この分野を最も早く学ぶのは現行課程(地学I)ですが、最も広く学ぶのは旧々課程です。
 
■指導要領についての検討
天文学は応用科学の側面が強く、化学の理論分野や物理の力学・波動分野と比較しても「大学理科教育への基礎」という色彩は強くありません。その一方で、天文分野の知識が一般常識としてひろく一般に共有されるべき内容かといえば、これも、生化学や気象・環境と比較するとその必要性は高くないように思えます。そうなると、履修者が少なくなったり学習内容が削減されたりするというのも仕方がないのかもしれません。そのような状況のもとでは、現行課程での学習範囲は、量も内容も適切なものだと思います。
その一方で、学習内容が、総合的理科・地学I・地学IIという性質の異なる科目間に割り振られているために、学習内容にムラがあり、体系的学習という点で困難が生じています。天文分野を1科目で一貫して扱う旧々課程と比べると、内容がコマ切れになったり、特定の内容を履修していない生徒が上級の概念を学ぶことになったりします。ただ、この点は天文分野固有の問題ではなく、高等学校理科の必修・選択科目設定の問題です。
 
■学習に際して
総合的理科については、教科書で内容の流れを確かめながら、標準レベルの問題集で知識を1つ1つ押さえていく、という方法で対応できます。地学I・IIについても、教科書とチャート式などの参考書の理解につとめれば十分です。この点が、化学や物理と異なる点です。ただ、天文分野は相互関連の薄いたくさんの知識を覚えるという側面がありますから、教科書の内容を押さえるのは意外と労力が必要です。
 
■受験に際して
地学全般が「底が浅く、早く仕上げられる科目」であるといわれますが、天文分野は特にその傾向が顕著で、センター試験で問われる知識はごく標準的です。計算問題でも、中性子星の半径などが以前出題されましたが、標準的参考書・問題集に収録されている問題のレベルです。
二次・私大でもその傾向は変わらず、東大・京大でも扱う内容は(他科目と比較すると)平易です。
 

*1:必修は「理科基礎」「理科総合A」「理科総合B」から1つ以上。

*2:特に大学受験者が多い進学校では、天文を履修しないほうが普通でしょう。

*3:「理科基礎」「理科総合A」「理科総合B」をあわせて指す。