学校教育での電磁気学の扱い

今回は、理科の学習分野のうち比較的身近の生活の役に立っていそうな電気分野について、その内容を見ていきます。前回と同じく、よりよい学習内容について検討できればと思います。
ここで、電磁気学の範囲が明確ではないというのも、前回と同じです。「磁力と力」「電気エネルギーと仕事」のように、他分野にまたがることもあります。今回はとりあえず、磁石・電気を中心に扱うこととします。具体的には、「電気と発熱・電力量」「電荷と電子」を含み、「電気と仕事」「原子と電子」を除きます。
 
理科という科目は特にその傾向が強いことなのですが、平易な内容を浅く広く並べた定性的な学習内容だと、その奥行きを理解することができずにかえってわかりにくくなることがあります。公式や事象をたくさん並べたような教科書になると、暗記科目のような授業になってしまうことになります。それを防ぐためには、各単元の学習である程度の奥行きを示すこと、言い換えると深入りして「法則の成り立ち」や「知識相互のつながり」を展開することが大切になるのですが、そうなると授業時間が足りなくなったり、理解できない生徒が出てきたりします。かつての物理IAや現行の物理Iが、平易な内容にもかかわらず理解しにくい理由は、おそらくこれです。
学校でかつて学んだ電磁気学といえば、現実の現象から離れた理論的な分野で、何の役に立つかわからない回路についてその抵抗値や発熱量を計算させられる、という分野でした。それが徐々に、身の回りの現象を観察して得られる知識を覚えていく分野へと変わりつつあります。一例を挙げれば、現行課程では、中学校での電磁誘導で「観察によって、磁界中のコイルに電流を流すと力が働くこと及びコイルや磁石を動かすことにより電流が得られること」は説明しますが、どの向きの力や電流が得られるのかの説明は、電流の向きを逆にすれば力の向きも逆になるという程度にとどまります。レンツの法則・フレミングの法則は範囲外だからです。
そうするとどのような学習内容が良いのか、という問題については、さまざまな見解が提示されてきました。現代では、身の周りの現象を分析するのに役に立つ程度の電磁気学を理解するためには、たくさんの知識や計算練習が必要で、学校教育の時間数ではなかなか太刀打ちできません。かつてならばスピーカーやラジオのしくみは簡単に説明できたのですが、電話やブラウン管TVではそうもいかなくなり、携帯電話やプラズマTVとなると、理論的詳細を学校で理解させることはかなり困難になります。にもかかわらず現行指導要領には「日常の」や「生活の中の」といった言葉が何度も登場します。この板ばさみの状況で電磁気学は、意外と教えにくい分野になっています。

(1)小学校での学習内容

■磁石の性質
磁石につくもの・つかないものや、N極とS極の性質を学習します。現行課程(平成10年12月14日文部省告示第175号)と旧課程(平成元年3月15日文部省告示第24号)は、この分野を3年生で学びます。旧々課程(昭和52年7月23日文部省告示第155号)は、この分野を1年生と3年生で学びます。磁石は生活に広く利用されているものであるためか、いずれの課程でも、理科の最初の学年で学習することになっています。課程間で、学習内容には大きな差異はありません。
 
■豆電球の性質
乾電池と豆電球を使って、電気を通すもの・通さないものや、つなぎ方を学習します。現行課程と旧課程では3年生で、旧々課程では2年生で学びます。この分野も、課程間での学習内容には大差がありません。
 
■電気と回路
直列・並列による電球の明るさの違いなどを学習します。このあたりから、計算を用いて値を求めるという電磁気学の特徴が現れます。いずれの課程でも4年生で学ぶのですが、内容の深さにやや相違がみられます。現行課程では、電池・電球の数やつなぎ方が変われば明るさが変わるという事実を調べるという点を重視していますが、旧々課程では、その変化の法則性を求めるところまで立ち入っています。
 
■電磁石の性質
電磁石のしくみや強さの変化を学習します。いずれの課程でも6年生で学び、課程間による学習内容には大きな差異はありません。旧課程では、直流モーターのしくみが扱われましたが、現行課程では削除されています。
 
■電熱線と発熱
旧課程のみで扱われていた分野です。6年生で学びます。電流の強さによって発熱量が異なる点には触れますが、電熱線の太さや長さの違いによる発熱の違い(抵抗値と発熱量の関係)は扱わないこととなっています。
 
■指導要領についての検討
基本的には、低学年で電磁現象を扱い、学年が進むにつれて理論を学ぶという、バランスのよい配列になっています。質的には、現行課程は計算的側面を排した定性的内容となっていますが、これについては、算数の教科内容の状況を考えるとやむをえないかな、と思います。ただ、そのような方向ならば、エネルギー論の基礎となる「電気と熱の関係」について少し触れたほうがよいかも知れません。「電気は光・熱・運動・音に変わることで生活の役に立つ」という観点を説明することで、生活と電気との関連性を学べるようになるからです。
 
■学習に際して
磁気分野では、磁力の作用を把握するうえで、磁力線の概念を理解する必要があります。3年生ではこの理解はやや困難ですが、電磁気学には「目に見えない力や場を扱う」という重要な役割がありますので、N極からS極に向かって目に見えない力の線が出ているという程度の知識があれば、磁石に関する理解を助けるでしょう。
電気分野では、電流の計算が重要になります。ところが、並列回路の合成抵抗の算出は複雑ですし、比例・反比例の概念も必要になるので、4年生の時点ではオームの法則(あるいは抵抗と電流の関係)に立ち入る必要はありません。ただ、並列と直列の違いについては正確に押さえておく必要があります。
 
■受験に際して
中学入試では、上位校ではほぼ中学・高校(物理I)レベルの知識が出題されます。予習シリーズや市販受験用参考書では、直並列(混合)回路での合成抵抗や電流・電圧、直流モーターのしくみ、直列・並列による電力値と電球の明るさの違い、電熱線の太さや長さの違いによる発熱量の違いなど、指導要領から削除(移行)された内容が非常に多く扱われています。計算方法さえ身につけてしまえば確実に正解を導けるので、高得点が狙える分野ではあるのですが、それでも、最初は内容の多さに戸惑うかもしれません。