キログラム原器とアンペア定義(2)

前回(id:ameni:20051105)のつづき。
電気測定法第11条で定めた命令(明治43年12月27日逓信省令第117号)では、交流電流について規定しています。

明治43年逓信省令第117号
第2条 不変電流以外の場合に於ける電流電圧及電力の計算方法左の如し
 1 不変電流以外の場合に於ける実効電流の不変電流に及実効電圧の不変電圧に対する等価は其の瞬時値の自乗の平均の平方根を以て定む
 2 不変電流一「アムペア」に相当する実効電流を一実効「アムペア」と称し不変電圧一「ヴォルト」に相当する実効電圧を一実効「ヴォルト」と称す
 3 電力は其の瞬時値の平均を以て定む

また、明治43年12月27日逓信省告示第1533号では、電気測定法第6条の標準器の仕様について、細目を規定しています。
 
一方、国際基準に従いながらも日本では質量の単位として尺貫制を基準としていましたが、大正10年改正によって、メートル制へ順次移行することが決定されました。

度量衡法【度量衡法中改正法律(大正10年4月11日法律第71号)による改正後の法】
第1条 度量はメートル、衡はキログラムを以て基本とす
メートルは融解しつつある純粋の水の氷の温度に於ける国際メートル原器の示す所の長とす
キログラムは国際キログラム原器の質量とす
 
第2条 メートルはメートル条約に依り帝国に交付せられたるメートル原器に依り、キログラムはメートル条約に依り帝国に交付せられたるキログラム原器に依り之を現示す
 
第5条 第二条に掲くる度量衡の原器は農商務大臣之を保管す
農商務大臣は前項の原器に依り製作したる副原器二組を以て前項の原器に代用す
副原器の一組は農商務大臣之を保管し他の一組は文部大臣之を保管す
 
附則【改正法附則】
従来慣用の度量衡は勅令の定むる所に依り当分の内仍之を用うることを得
【カタカナをひらがなに直し、旧漢字を改めました。以下戦前法令について同じ】

メートル法を採用した理由は、もちろん国際基準への対応です。

第44回帝国議会衆議院 度量衡法中改正法立案委員会議録第1回(大正10年3月23日)
○四条政府委員 大体提案の理由を説明致します。
御承知の通り我国の度量衡は各種の系統を混用して居りまする為に、其使用の状況が頗る錯雑を極めて居ります。【略】
我国の度量衡は之を何れの系統に統一すべきや、而して是が実行の順序方法如何と云ふことは、其影響の及ぶ所が頗る大きくございますから、政府は大正八年六月に度量衡及工業品規格統一調査会なるものを組織致しまして、其審議調査に付きまして、慎重なる研究を遂げたのであります。
惟ふに我国固有の度量衡は国民を挙げて日常使用して居る所であるのみならず、古来是が使用に慣熟致して居りますから、出来得べくんば此系統に統一することが容易であって、且つ便利であるに相違ありませぬが、奈何せん其の使用範囲が如何にも狭小でありまして、全然本邦内に限られて居ります。国際上には勿論の事、学術上、工業等にも不適当であります。国際交通の発達致しました今日、殊に我国今後の発展上、遺憾ながら適当なる系統と認むる訳には参らぬのでございます。

しかしながら旧来の尺貫制を廃止することへの抵抗は根強く、政府の調査会などでこの問題は何度も検討されました。
・度量衡及工業品規格統一調査会官制(大正8年6月25日勅令第305号)
・度量衡及工業品規格統一調査会官制廃止ノ件(大正10年3月29日勅令第45号)
・度量衡法中改正法律(大正10年4月11日法律第71号)
・大正十年法律第七十一号(度量衡法中改正法律)施行期日ノ件(大正13年5月16日勅令第116号)
・度量衡制度調査会官制(昭和10年8月8日勅令第245号)
・度量衡制度調査会官制廃止ノ件(昭和13年12月15日勅令第756号)
・度量衡法施行令及大正十三年勅令第百十七号(度量衡法施行令中改正)中改正ノ件(昭和14年1月18日勅令第18号)
昭和14年勅令の時点では、附則により、
・土地または建物については「当分の内」、その他のものは「昭和33年まで」尺貫法を用いる
メートル法の一部の倍数単位、およびヤードポンド法については「昭和33年まで」用いる
ことが決定されました。
 
この流れに対して、昭和初期には尺貫法に戻そうとする法案も提出されたことがあります。

度量衡法中改正法律案昭和9年)【改正後の条文】
第1条 度量衡は尺貫法を本位とし特に便宜ある場合はメートル法に依ることを得
尺貫法に依る度量は尺、衡は貫を以て基本とし、メートル法に依る度量はメートル、衡はキログラムを以て基本とす
  
第2条 尺はメートルの三十三分の十、貫はキログラムの四分の十五とし、メートルは融解しつつある純粋の水の氷の温度に於ける国際メートル原器の示す所の長、キログラムは国際キログラム原器の質量とす
メートルはメートル条約に依り帝国に交付せられたるメートル原器に依り、キログラムはメートル条約に依り帝国に交付せられたるキログラム原器に依り之を現示す
 
第5条 第二条第二項に掲くる度量衡の原器は商工大臣之を保管す
商工大臣は前項の原器に依り製作したる副原器二組を以て前項の原器に代用す
副原器の一組は商工大臣之を保管し他の一組は文部大臣之を保管す

いずれにせよ、この時点では主たる度量衡単位についての議論がなされていますが、質量(と長さ)の定義については変更はありません。

そして、度量衡についても戦後に法改正が行われ、昭和26年に計量法が公布されました。

計量法(昭和26年法律第207号)【第3条2号、第4条】
(基本単位及び現示)
第3条 長さ、質量、時間及び温度の計量単位は、左の通りとする。
 2 質量の計量単位は、キログラムとする。
   キログラムは、国際キログラム原器の質量とし、メートル条約によつて日本国に交付されたキログラム原器で現示する。
 
(原器及び副原器の保管)
第4条 前条第1号のメートル原器及びそれにより製造したメートル副原器は、通商産業大臣が保管する。
2項 前条第2号のキログラム原器及びそれにより製造したキログラム副原器は、通商産業大臣が保管する。

計量法施行法(昭和26年法律第208号)【第3条の1〜2号、第4条】
(度量衡法の廃止)
第2条 度量衡法(明治四十二年法律第四号。以下「旧法」という。)は、廃止する。
 
(尺貫法による計量単位)
第3条 次条及び第五条に規定する尺貫法による計量単位(新法第2条の計量単位をいう。以下同じ。)及びその補助計量単位は、昭和三十三年十二月三十一日(土地又は建物に関しては、昭和三十三年十二月三十一日以後において政令で定める日)までは、新法による法定計量単位とみなす。
第4条 尺貫法による計量単位は、左の通りとする。
 2 質量の計量単位は、貫とする。
   貫は、三・七五キログラムの質量をいう。

質量の定義、尺貫法の存続期間、尺貫法による質量の定義といった点については、旧法からの内容は変更されていません。
いっぽう、電気についての規定は電気測定法をそのまま存続させたため、不便であるという指摘がなされました。

第10回国会 衆議院通商産業委員会第22号(昭和26年3月31日)
○横尾国務大臣 ただいま議題と相なりました計量法案について、提出の理由を御説明申し上げます。
 計量に関しては、現在度量衡法がございますが、度量衡法は、明治四十二年法律第四号として制定されたものであつて、その後大正十年メートル法採用の大改正を初め数次にわたつて改正されましたが、なお、その大綱については、制定当時と大した変化はなく、終戦後の諸制度の一新の情勢から取残された観がありました。そのため学界、業界、計量器の使用者など各方面から現行度量衡法改正の要望が高まり、国会において同法の改正促進の建議案が提出されたことも一再でなかつたのであります。そこで通商産業省としては、昭和二十一年十一月よりこれが改正に着手し、種々検討を加えて来ました結果、今回計量法の成案を得た次第であります。
 計量法案は、現行度量衡法を全面的に改正しようとするものでありますが、その改正の要点は左の通りであります。
1 単位については、現行度量衡法が規定する長さ、面積、体積、質量、温度、密度、圧力、工率、力及び仕事の十単位のほかに、時間、速さ、加速度の大きさ、熱量、角度、流量、粘度、濃度、光度、光束、照度、周波数、騒音の大きさ、繊度、かたさ、衝撃値、引張強さ、圧縮強さ、粒度、屈折度、湿度、比重及び耐火度を加え、電気関係のものを除き、最近経済界において取引または証明に使用されている単位を網羅しました。
【略】
 
 なお現行度量衡法のもとにおいても、度量衡法制度は、メートル法を基本とし、尺貫法、ヤードポンド法を昭和三十三年十二月末日まで併用することになつていますが、この点は計量法案においても、そのまま踏襲しました。
 現行度量衡法は、すでに半世紀を経たものでありまして、最近の経済及び文化の実情とは疎隔して来ているのでありまして、政府はここに計量法案を提出して、取引証明の安全を確保し、経済及び文化の発展に資せしめようとするものであります。

第10回国会 衆議院通商産業委員会第26号(昭和26年5月15日)
○中村(幸)委員 この計量法案におきましては、電気関係の単位を取上げておらないように思うのでありますが、その理由はどういう点にあるのか、この点をお聞きしたいと思います。
○玉置政府委員 現在の度量衡関係におきましては、電気関係は電気測定法というので、別個の法律ができておるのであります。理論的に申し上げますれば、あらゆる単位を網羅するという点から考えますれば、一括した方がきわめて便利であり、理想的のように考えるのでありますが、従来法律が二つの法律にわかれておつたことと、またその内容におきまして、相当一般の度量衡と違えておるのであります。たとえば従来の度量衡あるいは今回の計量法案におきましては、製造事業等に対しましては、許可主義をとつております。電気測定法の方におきましては、形式承認主義をとりまして、度量衡の対人的なのに対しまして、いわば対物――物的の方を重視してやつておるのであります。また度量衡法におきましては、中央と府県、市町村というものが検定を行い、また取締りも府県、市町村で行つておるのでありますが、電気関係におきましては、府県・市町村を使わないという現状になつておりまして、先ほどのあらゆる点と相当違つた歩み方をして来ておるのであります。従いまして今回も、従来のやり方、また一般業界の受入れ方におきまして、相当違つた点がございますので、これを分離いたした次第でございます。いずれ近く電気測定法におきましても、最近の経済界の進歩発展に即応いたしまして、改正をされることに相なつておる次第であります。