小説(2)

乱歩の全集はいくつか出ていますが、そのうちの一つが光文社文庫の全集です。さきほどの幽霊塔は「第11巻 緑衣の鬼」に収録されていますから、探しにくいかもしれません。なお緑衣の鬼もリライトです。光文社文庫は、ほぼ全ての作品が収録されており、注釈・解説が詳しいです。
ほかには、初出時の挿絵が掲載されている創元社版、天野喜孝のイラストが表紙になっている講談社版、さらにはポプラ社のクラシック(1〜26)などがあります。個人的には、やっぱりポプラ社の27〜46が再版されてほしいです。
 
また、アガサ・クリスティーについては、早川書房クリスティー文庫を出しています。これもほぼすべての作品を収録したものなのですが、はてなキーワードの記述からもわかるように、どうも評価があまり芳しくないようなのです。

「新訳」を謳っているが、実際に訳者が代わったものは数冊しかない。また、数人の訳者を代えたというだけであって、そうでない作品については現代事情にそぐわない古い訳語に手を入れるなどの工夫や変更が全くなく、旧文庫の訳文のまま。訳者を代えた作品の基準も不明。「新訳」は、新文庫創設の意義とは言えない。

また、解説者が推理作家やミステリ評論家であることも「売り」の1つだが、中にはかなりの外れもあるし、却って、訳者のあとがきが読めなくなって残念な作品もある。

創元社のシリーズが高評価なのですが(私も、創元社の雰囲気の良さが好きです)、しかし「そして誰もいなくなった」などは早川のみです。そのクリスティー文庫でも、「Indian Island」は「インディアン島」と訳されている版と「兵隊島」と訳されている版があります*1
そしてハヤカワからは「クリスティー・ジュニア・ミステリ」という、こども向けのクリスティ本が出版されているのですが、これが、子ども用の改変が少ないために、評価が分かれています。原作に忠実だという一方で、子どもにはわかりにくいという点も指摘されています。たとえば陪審員の説明が本文で追加されているのですが、それは裁判官に書き換えてもいいかもしれません(ポプラ社の乱歩では、原作の予審判事を登場させていない)。どうせ改変するのであれば、わかりやすいほうがいいですから。

*1:発表当時は「Nigger Island」