民法債権法(2)

前回(id:ameni:20130101)のつづき。
3 相殺
《1》相殺
*相殺は、自己の債権(自働債権)でもって自己の債務(受働債権)を消滅させる制度。
*相殺の意思表示によって、相殺適状時にさかのぼって、相当額の債権が消滅する。
*相殺適状の要件は、以下。
+互いに同種の目的を有する(同種の給付を求める)債務が存在する
+両者が、弁済期にある
+債務の性質が、相殺可能なものである
*受働債権については、期限の利益を放棄して、相殺することができる。
*弁済期の定めのない債権は、いつでも請求できるから、直ちに相殺できる。
*弁済を先送りできる抗弁権(ex同時履行の抗弁権)が付着している債権は、抗弁権を封じない限り、相殺することができない。
《2》相殺の方法
*相殺は、相手方への一方的意思表示によって行う。
*相殺の意思表示に、条件や期限を一方的に付けることはできない。
*相殺が競合するときは、先に意思表示したほうが優先する。
《3》相殺と不法行為
不法行為による損害賠償債権を受働債権とする相殺は、できない →債権者が行った不法行為
不法行為による損害賠償債権を自働債権とする相殺は、できる →不法行為の被害者が持っていた債務。
不法行為による損害賠償債権どうしの相殺は、できない。
 
4 更改・当事者変更
《1》更改
*更改とは、債務の要素(ex給付の内容、当事者)を変更することによって、債権を消滅させて新しい債権を発生させる契約。

(債務者の交替による更改)第514条 債務者の交替による更改は、債権者と更改後に債務者となる者との契約によってすることができる。ただし、更改前の債務者の意思に反するときは、この限りでない。
(債権者の交替による更改)第515条 債権者の交替による更改は、確定日付のある証書によってしなければ、第三者に対抗することができない。

*債権者の交替による更改は、両債権者と債務者による契約(三面契約)で行う。
*旧債務に付着していた抗弁権などは、更改によって消滅する。
《2》債権譲渡
*債権譲渡とは、給付の内容などを変えずに、債権者を移転させる契約。

(債権の譲渡性)第466条1項 債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2項 前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。

*将来発生する債権を目的とする債権譲渡も、有効。
*譲渡禁止特約に反した債権譲渡につき、債務者が譲渡を承認した場合には、はじめから有効であったこととなる。
*譲渡禁止特約を対抗できない第三者は、善意無重過失。
*譲渡禁止特約がついた債権も、差押え、転付命令は、することができる。
《3》指名債権の譲渡
*指名債権とは、債権者が特定しており、債権の成立につき証書を要しない債権。
*指名債権は、譲渡人と譲受人の合意だけで譲渡することができる。
*譲渡を債務者に主張するためには、(1)譲渡の通知または(2)債務者の承諾、を要する。
*譲渡の通知をするのは、譲渡人。譲受人は、代位による通知もできない。→債権者の真正の保証。
*譲渡の通知は、譲渡とともにする。事前の通知は効力を持たない。
*承諾の相手方は、譲渡人、譲受人のいずれでもよい。
*事前の承諾も、内容を特定していれば、効力を持つ。
*譲渡の通知や承諾は、確定日付のある証書で行うと、第三者に対抗することができる。→情報センターは、債務者。
《4》二重譲渡
*債権が二重譲渡されたときは、第三者への対抗要件を先に具備した譲受人が権利を取得する。
*債務者に対する関係でも、確定日付のある証書での通知・承諾がある譲受人が、債権者となる。
*二重譲受人の双方が対抗要件を具備しているときは、通知の到達・承諾の日時が先である者が、債権者となる。
*さらに、日時が同時または先後不明のときは、以下となる。
+先後不明のときは、同時に到達したものとする。
+同時に到達したときは、各譲受人は、譲受債権の全額を債務者に請求できる。
+債務者が供託したときは、各譲受人は、各自の債権額によって比例配分した額の範囲について、還付請求できる。
《5》抗弁と債権譲渡
*譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者は、その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由(ex弁済、同時履行)をもって譲受人に対抗することができる。
*債権が虚偽表示によるものであるときは、債務者は、94条2項により、善意の譲受人に対して無効を主張できない。
*債務者が異議をとどめないで承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由(ex弁済)があっても、譲受人に対抗することができない。→弁済により消滅した債権が復活する。
*ただし、保証人の保証債務は復活しない。→保証人の負担を考慮
*抵当権も、承諾前から登場している第三者との関係では、復活しない。
《6》債務引受
*債務引受とは、給付の内容などを変えずに、債務者を移転させる契約。
*免責的債務引受は、債務者が入れ替わり、旧債務者は債権から離脱する。
*免責的債務引受では、保証債務や物上保証は、消滅する。
*並存的債務引受は、旧債務者が新債務者と並んで、依然として債務者である。
*並存的債務引受では、両債務者の関係は、連帯債務となる。
*免責的債務引受には債務者の同意が必要であり、並存的債務引受は債務者のみによってすることができる。
*履行の引受は、引受人が債務者に代わって債務を履行する。
*履行の引受は、債務者と引受人との契約により成立するが、債権者は引受人に対して履行の請求をすることができない。