民法総則(4)法律行為

前回(id:ameni:20101018)のつづき。

1.意思表示

(1)法律行為と意思表示
法律行為:意思表示を構成要素とする行為であって、その意思表示に基づいて法が一定の効果を認めるもの。売買契約など(双方の意思表示の合致により、所有権移転という効果が認められる)。
意思表示:一定の法的効果の発生を求める意思の表示。
要件が満たされれば、その意思どおりの法的効果を発生させる。
意思能力:意思表示を行うために必要な能力。
意思能力のない者による意思表示は、無効。
 
(2)意思表示の受領
到達主義:意思表示は、相手方に到達した時点で効力を生じる。
到達:相手方が意思表示を知り得る状態になること。現実に知る必要はない。
未成年者と成年被後見人には、意思表示の受領能力がない。未成年者や成年被後見人に対する意思表示は、それを主張できない。
 
(3)心裡留保
心裡留保(単独虚偽表示):表示者が、真意を心のうちに隠し、真意とは別の内容を表示すること。
心裡留保による意思表示は、相手方が善意無過失の場合には、有効。→相手方の保護のため。
それ以外の場合には、意思表示は無効。
 
(4)通謀虚偽表示

(虚偽表示)
第94条1項 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2項 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

虚偽表示(通謀虚偽表示):相手方と通じて、真意とは別の意思表示をすること。たとえば、仮装譲渡。
虚偽表示は、無効であるが、善意の第三者に対しては、無効を主張することができない。権利外観の保護。
善意の第三者:当事者・その包括承継人(一般承継人)以外の者で、虚偽表示であることを知らずに、権利外観を持つ者と取引関係などを形成した者。
例)仮装譲渡された土地を、仮装譲受人から買ったり、抵当権の設定を受けたりした者。
ただし、土地の仮装譲受人がその上に建てた建物の賃借人は、該当しない。
善意の立証責任は、第三者にある。
三者となった時点での善意が要求される。
 
(4)通謀虚偽表示と転得者
仮装譲渡された物が売却され、買主がその土地を転売した場合:
転得者も、94条2項の第三者となる。転得者が善意であれば、保護される。(仮装譲渡の当事者は、その譲渡の無効を転得者に主張できない)
その後の転得者は、悪意でも保護される。ゆえに、転得者が悪意であっても、仮装譲受人からの買主が善意であれば、転得者も、保護される。
 
(5)94条2項
94条2項は、通謀虚偽表示の場面だけでなく、権利の外観への信頼を保護すべき場合には、類推適用される。
例)所有者などの真の権利者が、権利がないような外観を作り出した場合や、そのような外観を黙認した場合。外観を信頼した者を保護する。
 
(6)錯誤
錯誤:表示された意思と表意者の真思が食い違っているのに、表意者が気づいていないこと。
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効である。
相手方や第三者が善意であっても、主張できる。
法律行為の要素:法律行為の重要部分であり、錯誤がなければ、一般人もそのような意思表示をしなかったといえるような部分。
原則として、錯誤による無効は、表意者本人だけが主張できる。
表意者に重大な過失があったときは、表意者は、錯誤による無効を主張することができない。
錯誤が表意者の過失によるものであって、それにより相手方が損害を被った場合には、損害賠償を求めることができる。
 
(7)詐欺
詐欺による意思表示:騙されて錯誤に陥ったまま行った意思表示。
瑕疵ある意思表示として、有効だが、取り消すことができる。
取消権者:本人やその包括承継人など。
三者が詐欺を行った場合には、相手方が詐欺の事実を知っているときに限って、取り消すことができる。
善意の第三者:取消前に、善意の第三者が現われた場合には、その善意の第三者に対しては、取消しを主張することができない。
取消後に出現した善意の第三者:先に登記などの対抗要件を備えた側が、権利を取得する。(177条)
詐欺による意思表示に要素の錯誤があった場合には、錯誤による無効と、詐欺による取消しを選択的に主張することができる。
 
(8)強迫
強迫による意思表示:恐怖を抱かせられてやむを得ず行った意思表示。
瑕疵ある意思表示として、有効だが、取り消すことができる。
取消権者:本人やその包括承継人など。
詐欺との差異:強迫を行った者が第三者であっても、無条件に取り消すことができる。←表意者保護
また、取消前に出現した善意の第三者に対しても、取消しを主張することができる。
取消後に出現した第三者との関係は、詐欺の場合と同じく、対抗要件の具備の先後による。
なお、強迫によって完全に意思の自由が奪われた場合には、意思が存在しないため、意思表示は、当然に無効となる。

2.無効・取消し

(1)無効
無効は、はじめから当然に、効力がない。主張によって効力が失わわれるのではない。無効は、誰でも主張できる。また、誰に対しても主張できる。
例外)錯誤無効(本人のみが主張できる)など。
無効は、いつでも主張できる。
 
(2)取消し
取消し:意思表示は一応有効である。取消権が行使されると、遡及的に当初から無効になる。取消しは、取消権のある者だけができる。また、取消しの意思表示は、相手方が確定している場合には、その者に対して行わなければならない。
取消権は、追認することができる時から5年以内、かつ行為の時から20年以内に、行使しなければならない。
 
(3)追認
無効な行為:追認しても、遡及的に有効になるわけではない。ただし、無効であることを知りながら追認すると、新しい行為をしたものとみなされる。
三者に不利益を及ぼさない範囲であれば、無効な行為も、遡及的追認ができる。
取り消すことのできる行為:追認によって、はじめから有効な行為だったことになる。
追認権をもつのは、取消権者。
取消しの原因となった状況が消滅した後に、取消権のあることを知ったうえで、追認することが必要。
法定代理人の追認:取消しの原因となった状況が消滅しなくても、追認できる。なお、法定代理人の同意があれば、未成年者は、成年になる前に追認できる。
 
(4)法定追認
法定追認:取消権者が一定の行為を行った場合には、追認したものとみなされる(追認擬制)。
要件:追認が可能になった後に、取消権者が、異議をとどめずに、追認と同質の行為を行うこと。
例)売買契約を結んだ未成年者が、成年になった後で、引渡を履行した場合。
追認と同質の行為:債務の履行、履行の受領、履行の請求、相殺の意思表示、担保の供与、権利の譲渡、など。
ただし、取消権者が履行を請求されても、追認は擬制されない。
追認可能前:追認は擬制されない。しかし、未成年者が法定代理人の同意を得て行為をすれば、追認が擬制される。
 
(5)取消の効果

(取消しの効果)
第121条 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。

履行義務:取消しによって、意思表示はなかったことになるので、義務もなくなる。すでに履行された義務は、原状に戻さなければならない。
悪意の受益者:受けた利益に利息を付けて返還する義務がある。また、損害賠償責任も負う。
善意の受益者:取消しうる行為であることを知らなかった場合には、現存利益を返還すればよい。
制限行為能力者:現存利益を返還すればよい。

3.条件・期限

(1)条件・期限
付款:当事者間の特約によって、法律行為の効力の発生または消滅を、一定の事実にかけること。
条件:一定の事実が発生するかどうかが、不確実な付款。
期限:一定の事実の発生が確実な付款。
停止条件:停止していた法律行為の効力を、発生させる条件。
解除条件:発生していた法律行為の効力を、消滅させる条件。
特約のない場合には、停止条件付法律行為は、条件成就時から効力を生じる。また、、解除条件付法律行為は、条件成就時から効力を失う。
 
(2)既成条件
既成条件:客観的には既に成否が確定している事実を、当事者が、未確定と思って条件とすること。
成否が確定しているために、法律行為の効力が確実に発生し、条件を付ける意味がない場合には、無条件となる。
停止条件:事実が成就が確定していた場合には、無条件となる。
解除条件:事実の不成就が確定していた場合には、無条件となる。
成否が確定しているために、法律行為の効力が発生する余地がなく、条件を付ける意味がない場合には、無効となる。
停止条件:事実が不成就が確定していた場合には、無効となる。
解除条件:事実の成就が確定していた場合には、無効となる。
 
(3)不法条件・不能条件・純粋随意条件
不法条件:不法な条件や、不法な行為をしないことを内容とする条件。不法条件を付けた法律行為は、無効である。
不能条件:成就することができない内容の条件。
不能条件は、停止条件ならば、無効であり、解除条件ならば、無条件となる。
純粋随意条件:成就するか否かが、純粋に義務者の意思にのみかかっている停止条件。法的拘束力を認める必要がないので、無効。
 
(4)条件成就の妨害
条件の成就によって不利益を受ける者が、成就を妨害し、それが信義則に反する場合には、相手方は、条件が成就したものと扱うことができる。
条件の成就によって利益を受ける者が、条件を成就させ、それが信義則に反する場合には、相手方は、条件不成就と扱うことができる。