民法総則(3)人

前回(id:ameni:20101011)のつづき。

1.失踪

(1)失踪宣告
失踪宣告:生死不明の人を、一定の要件のもとで死亡したものとみなす制度。
利害関係人からの請求のもとで、家庭裁判所によって宣告される。
普通失踪:不在者が、7年間生死不明状態でいること。
特別失踪:戦争などの死亡の原因となるような危難に遭遇し、その危難が去ってから1年が経過すること。
 
(2)失踪宣告の効果
失踪宣告を受けた者は、7年の失踪期間満了時(普通失踪)、または危難の去った時(特別失踪)に、死亡したとみなされる。
死亡とみなされた時点から相続が開始する。失踪者の財産は、相続人が承継する。
しかし、失踪者は権利能力を奪われない。生きていれば、そこで行為を行うことができ、権利の取得ができる。
 
(3)失踪宣告の取消し
失踪者が生存していたり、死亡の時期が異なっていたことが判明した場合、失踪宣告の効果は当然には消滅しない。
失踪宣告の取消し:本人または利害関係人の請求に基づき、家庭裁判所が行う。
失踪宣告が取り消されると、遡及して、はじめからなかったことになる。
相続によって取得した財産は、返還しなければならない。しかし、現に利益を受けている限度(現存利益)でよい。
失踪宣告後に善意でなされた行為は、その後に失踪宣告が取り消されても有効である。
当事者は、双方ともに善意であることが必要。

2.未成年者

(1)未成年者の法律行為

(未成年者の法律行為)
第5条1項 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。

未成年者:20歳に満たない者
未成年者は、行為能力が制限される(制限行為能力者
成年擬制:20歳未満であっても、結婚をすると、成年と扱われる。←夫婦の独立性を保護するため。
未成年者が法律行為を行うには、原則として、法定代理人(父母など)の同意が必要。
例)負担付きの遺贈の放棄
未成年者が単独で行うことができる行為は、
(1)単に権利を得、または義務を免れるだけの行為 例)負担なし贈与、債務免除
(2)法定代理人が目的を定めて許した財産の処分 例)小遣い
(3)法定代理人が許した特定の営業に関する行為
 
(2)制限行為能力による取消し
法定代理人の同意を得ずに未成年者が単独で行った法律行為は、取り消すことができる。
制限行為能力による取消しは、善意の第三者にも対抗できる(絶対的効力)。
取消権者は、未成年者本人・法定代理人などがもつ。
未成年者本人にも取消権があり、単独で取消権を行使できる。取消権の行使について、法定代理人の同意を得る必要はない。
 
(3)成年被後見人の法律行為
成年被後見人:精神上の障害によって、事理弁識能力を失った者。
本人・配偶者・4親等内の親族などの請求に基づいて、家庭裁判所が、後見開始の審判を行う。成年被後見人が保護をする。
成年被後見人が自ら行った法律行為は、取り消すことができる。→成年後見人の同意を得ていても、取り消すことができる。
成年被後見人が単独で行うことができる行為は、日用品の購入などの日常生活に関する行為。
取消権は、本人や成年後見人などがもつ。成年被後見人本人は、意思能力がある状態であれば、自分の判断で取消権を行使できる。
 
(4)被保佐人の法律行為
被保佐人:精神上の障害によって、事理弁識能力が著しく低い者。
本人・配偶者・4親等内の親族などの請求に基づいて、家庭裁判所が、保佐開始の審判を行う。保佐人が保護をする。
被保佐人の特定の法律行為について、被保佐人自身が請求し、または同意している場合には、家庭裁判所の審判によって、保佐人に代理権を付与することができる。
重要な法律行為を行う場合:被保佐人が、不動産の売買・保証・遺産分割などを行う場合、保佐人の同意が必要である。日常生活に関する行為を除く。
同意を与えてよいのに保佐人が同意を与えない場合、被保佐人は、保佐人の同意に代わる許可を、家庭裁判所に請求できる。
重要な法律行為を、同意・許可なく被保佐人が行った場合は、取り消すことができる。
取消権は、被保佐人本人や保佐人などがもつ。
 
(5)被補助人の法律行為
被補助人:精神上の障害によって、事理弁識能力が不十分な者。
本人・配偶者・4親等内の親族などの請求に基づいて、家庭裁判所が、補助開始の審判を行う。補助人が保護(補助)をする。
補助開始の審判は、本人の請求または同意が必要。

補助開始の審判を行う場合には、次の審判も行わなければならない。
この審判にも、被補助人本人の請求または同意が必要。
(1)特定の行為(民法13条)の一部について、補助人に同意権を付与する審判
(2)被補助人の特定の法律行為について、補助人に代理権を付与する審判
同意を与えてよいのに補助人が同意を与えない場合、被補助人は、補助人の同意に代わる許可を、家庭裁判所に請求できる。
補助人の同意を要する法律行為を、同意・許可なく被補助人が行った場合は、取り消すことができる。
取消権は、被補助人本人や補助人などがもつ。
 
(6)相手方の催告権
制限行為能力者と法律行為をした相手方は、催告権がある。←不安定な地位を解消するため
催告:法定代理人・保佐人・補助人に対して、追認するかどうかを、1か月以上の期間内に回答するように、催告する。
行為能力の制限がなくなった後には、制限行為能力者であった本人に対しても、催告できる。
期間内に回答がない場合:追認したものとみなされる。
同意が必要な行為の場合:期間内に回答がなければ、取り消したものとみなされる。
被保佐人・被補助人への催告:相手方は、被保佐人、または補助人の同意が必要な被補助人に対して、1か月以上の期間内に、保佐人または補助人の追認を得るように催告ができる。
期間内に、追認を得た通知がない場合:行為を取り消したものとみなされる。
 
(7)詐術
詐術:制限行為能力者が相手方に対し、自己の判断能力に問題がないとしたり、法定代理人などの同意権者の同意を得ているとしたりした場合。
詐術を用いた場合には、その行為を取り消すことはできない。
黙秘:自己の行為能力の制限を黙っているにすぎない場合は、詐術に当たらない。しかし、「他の言動とあいまって能力者であると誤信させ、または誤信を強めた場合」には、詐術に当たる。