民法相続(2)

前回(id:ameni:20100920)のつづき。相続。

遺産

(1)特別受益
特別受益者:共同相続人のうち、遺贈や生前贈与を受けた者。
生前贈与は、相続分の前渡しであると評価される部分に限る。
相続分から特別受益を引いて、相続財産とする。
 →特別受益が相続分を超えるときは、相続分を受けることができない。
ただし、相続分を超える価額を返還する必要はない。

(2)寄与分
共同相続人のうち、被相続人の財産について特別の寄与をした者に対して、寄与分を定め、相続財産から控除して相続分を算出する。
協議によって価額を定める。
協議が調わないとき・できないときは、寄与者の請求により、家庭裁判所寄与分を定める。
内縁者は、寄与分を取得できない。 →相続人ではないから。

(3)遺産分割
遺産分割:共同相続人の共有となっている遺産を、各人の財産とすること。
被相続人が遺言で分割方法を指定していたときは、それに従う。
遺言がないときは、共同相続人は、いつでも、協議で遺産分割をすることができる。
協議が調わないとき・できないときは、相続人の請求により、家庭裁判所が分割する。
特別の事由があれば、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の一部・全部につき、分割を禁じることができる。

相続開始後の認知によって相続人となった者: 他の相続人が既に分割(などの処分)をしていた場合には、価額の支払いの請求のみができる。 →分割のやり直しは請求できない。
協議による負担債務を履行しない相続人がいても、債務不履行による分割の解除はできない。
ただし、全員の合意による解除、再協議はできる。
三者への譲渡部分は、分割の対象とはならない。
 →第三者が、相続開始後・分割前に、共同相続人から共有持分権を譲り受けた場合、分割手続を経ることなく分割請求できる。
債務を相続する旨の分割協議は、共同相続人間では有効であるが、債権者の承諾がないと債権者に対抗できない。→債務引受。

遺言

(1)遺言
遺言:遺言者の死後の法律関係を定める意思表示。
遺言できる事項: 認知、相続分の指定、遺贈、遺産分割の指定、など民法が認めるものに限る。
意思能力が必要。
ただし、取引ではないので、行為能力の規定は適用されない。
15歳に達した者は、遺言能力があるとされる。
遺言能力は、遺言時になければならない。
成年被後見人が遺言できるのは、判断能力が一時回復した時。
医師2名以上の立会いで、判断能力を証明する。

(2)遺言の方式

(遺言の方式)
第960条 遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。

要式行為: 民法の定める方式に従わない遺言は、無効。要式行為
方式として、(1)自筆証書遺言、(2)公正証書遺言、(3)秘密証書遺言。
 
自筆証書遺言: 全文・日付・氏名を、遺言者が自書して、押印する。
内容変更は、変更を署名して、押印する。
日付として年月しか記載がなければ、無効。「吉日」も、無効。
1通の遺言書が数葉にわたる場合、1通の遺言書として作成されたことが確認されれば、有効。
 
公正証書遺言: 証人2名以上の立会いの下で、公証人が遺言者から直接、口頭で遺言の趣旨を聞いて作成する。
未成年者は、証人や、立会人になることはできない。

秘密証書遺言: 公証人1人と証人2人以上の関与が必要。
共同遺言の禁止: 複数の者が同一の証書で遺言することはできない。
夫婦であっても、共同遺言は無効。

(3)遺言の効力
遺言者の死亡の時から、効力を発生する。
意思表示の総則規定に従う。 →要素の錯誤による無効、詐欺・強迫による無効。
撤回:死亡以前は、いつでも、遺言の方式に従って、遺言の全部または一部を撤回することができる。
なお、遺言を行ったときと異なる方式で撤回することは、できる。
遺言の撤回権は、放棄できない。
複数の遺言が抵触する場合には、前の遺言の部分は、後の遺言によって撤回されたとみなされる。
遺言者が故意に遺言書を破棄した場合には、破棄した部分について、遺言を撤回したとみなされる。
撤回ののち、その撤回を撤回しても、元の遺言は復活しない。 →意思が明確ではないから。
撤回を詐欺・強迫として取り消したときは、元の遺言が復活する。 →元の遺言に戻る意思が明確。

(4)遺言の執行
遺言書の保管者・発見者は、家庭裁判所に、検認を請求する。
例外)公正証書遺言は、検認不要。
検認は、形式的要件の確認のために、偽造・変造の有無を調査する。
検認は、内容の真否・有効無効を判断するものではない。

(5)遺言執行者
遺言執行者: 遺言内容を実現する者。
遺言者は、遺言で、遺言執行者を指定したり、第三者に指定を委託することができる。
利害関係者は、裁判所に、遺言執行者の選任を請求することができる。
遺言執行者は、第三者にその任務を行わせることができない。
 例外)やむを得ない事由のあるとき、または、遺言で許されているとき。
未成年者、破産者は、遺言執行者になれない。

(6)遺贈
遺贈:遺言により、遺産の全部・一部を贈与すること。
包括遺贈: 遺産の全部または一定の割合を遺贈すること。
特定遺贈: 特定の遺産の遺贈。
包括遺贈者は、相続人と同一の法律的地位に立つ。遺産分割協議にも参加できる。
遺贈は、遺贈者の死亡時に、効力を発生する。→遺言に伴う。

(7)受遺者
受遺者は、遺贈者の死亡時点で、生存していなければならない。
それ以前に受遺者が死亡していたときには、遺贈は無効。
受遺者の相続人が代わって承継することは、ない。
胎児は、遺贈者の死亡時に出生している必要はない。 →既に生まれたものとみなされるから。
特定遺贈の受遺者は、遺言者の死亡後いつでも、遺贈を放棄できる。
その放棄の効力は、死亡時にさかのぼる。
包括遺贈の受遺者は、そのことを知ってから3か月以内に、遺贈の承認・放棄をしなければならない。

(8)遺留分
遺留分:一定の相続人に残すべき、相続財産の割合。
直系尊属だけが相続人の場合は、相続財産の3分の1。
その他の場合には、相続財産の2分の1。
代襲者は、遺留分も代襲する。

(9)遺留分の放棄
遺留分は、放棄することができる。
相続開始前の遺留分放棄は、家庭裁判所の許可が必要。 →強要を防止するため。
共同相続人の一人の遺留分放棄は、他の者の遺留分に影響しない。
遺留分を放棄すると、遺留分減殺請求権を失う。
ただし、相続人の地位を失うわけではない。

(10)遺留分減殺請求
遺贈・贈与による遺留分侵害に対して、遺留分権利者は、減殺請求することができる。
減殺は、まず遺贈について行う。次に贈与について行う。
受贈者・受遺者は、減殺を受ける限度で、贈与等の目的の価額を遺留分権利者に弁償することにより、返還義務を免れることができる。
弁償の額は、訴訟事実審の口頭弁論終結時の価額を基準とする。
遺留分減殺請求権は、それを知った時から1年間行使しないと、時効消滅する。
相続開始から10年を経過した場合にも、同じ。
請求権は、裁判上で行使する必要はなく、受贈者・受遺者に対する意思表示でよい。
減殺請求がなされると、遺贈は、その限度で失効する。