民法総則(2)時効

前回(id:ameni:20100906)のつづき。

1.時効の種類

(1)取得時効
時効:一定の事実状態の継続に対して、それを権利関係として認める制度。
取得時効:時の経過によって権利を取得する制度。

(所有権の取得時効)
第162条1項 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2項 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

占有開始の時点で善意無過失であれば、途中で悪意に転じたとしても、10年間の占有で取得時効が完成する。
所有の意思:権利の性質から客観的に判断して、所有権の行使と認められること。所有の意思の有無は、占有取得原因または占有に関する事情によって、外形的客観的に決定する。

(2)承継と取得時効
占有を引き継いだものは、自身の占有期間だけを主張してもよいし、前主の占有期間を合算して主張してもよい。
前主の占有期間を合算する場合、前主が悪意ならば、それを引き継ぐ。
逆に前主が善意ならば、承継したものは、自身が悪意であっても10年間の取得時効を主張できる。

(3)取得時効の対象物
取得時効の対象は、他人の物。動産でも不動産でもよく、
一筆の土地の一部だけでもよい。

不動産の二重譲渡で、前の譲受人(第一譲受人)が登記をしなかったために後の譲受人(第二譲受人)が登記した場合、第一譲受人は、当該不動産を時効取得できる。→第一譲受人は対抗要件を具備しておらず、第二譲受人との関係では当該不動産は「他人の物」であるから。

(4)消滅時効

(債権等の消滅時効
第167条1項 債権は、10年間行使しないときは、消滅する。
2項 債権又は所有権以外の財産権は、20年間行使しないときは、消滅する。

消滅時効:時の経過によって権利を失う時効。
債権や地上権などが消滅時効にかかる。所有権や物権的請求権は、消滅時効にかからない。
短期消滅時効:債権のなかには、10年よりも短い期間で時効消滅するものもある。不法行為による損害賠償請求権(3年)など。
短期消滅時効にかかる権利も、裁判上の請求によって時効が中断し、その裁判が確定すると、新たに進行する消滅時効の期間は10年となる。

(5)消滅時効の起算点
消滅時効は、権利を行使することができる時(債権実現が可能になった時点)から、進行を開始する。
期限付きの債権:期限の到来の時点。
期限の定めのない債権:債権発生と同時。
ただし、消費貸借では、相当な期間は目的物を自由に使うことができるから、債権発生から相当な時間を経過した後に、消滅時効の進行が開始する。
債務不履行に基づく損害賠償請求権:本来の債務を履行しうる時点。
→損害賠償請求権は、本体の履行請求権と同一性を有するから。
契約解除に基づく原状回復請求権:解除の時点。
→解除によって発生する権利だから。
夫婦の一方が他方に対して有する債権:権利を行使できる時点。
注意)婚姻解消の時点からではない。
 

2.時効の完成

(1)時効の中断
時効の中断:時効完成のために必要な事実状態が、継続しなくなること。
時効中断によって、時効計算は出発点に戻る。
中断事由が終了した後に、また新たに時効進行する。
法定中断事由:請求、差押え、仮差押えまたは仮処分、承認。
 
(2)請求
請求:権利者が裁判所に訴えを提起すると、その時点で時効中断の効果が発生する。判決が確定すると、その時点から新たな時効の進行が開始する。
ただし、訴えが却下されたり、取り下げられたりした場合には、時効中断の効果は生じない。
催告:裁判外での履行請求。
催告には、時効中断の効果はない。しかし、催告後6か月以内に裁判上の請求などを行えば、時効を中断できる。
催告を繰り返すことは、できない。
 
(3)承認
承認:時効の利益を受ける者が、権利の存在を認める行為。
例)弁済猶予の申込み、利息の支払、など。
処分行為ではないため、処分能力・処分権は必要ではない。行為能力・代理権などは不要。
例)被保佐人の承認によって、時効は中断する。保佐人の承認は不要。
しかし管理能力・管理権は、必要。
例)未成年者・成年被後見人は、管理能力がないので、これらの者が単独の承認をしても、時効は中断しない。
 
(4)時効の停止
時効の停止:時効の進行が「一時」停まること。
時効完成間際に、時効中断を困難にする事情が発生した場合に、その事情が消滅するまでは時効が完成しない。時効を中断できなかった者を保護する。
法定代理人がいない場合:時効完成6か月以内に、未成年者・成年被後見人法定代理人がいない場合、その者が行為能力者となるか法定代理人が就き、それから6か月が経過するまでは、時効は完成しない。
 
(5)時効の援用
時効の援用:時効によって利益を受ける者が、その利益を受ける意思を表示すること。
時効の効果は、時効を援用したものにのみ発生し、援用の効果は、援用者にのみ及ぶ。
時効の効果は、援用された時点で初めて確定的に生じる。
援用権者:時効によって、直接の利益を受ける者。
保証人、連帯保証人、物上保証人、抵当不動産の第三取得者、など。
連帯保証人は、主たる債務の消滅時効を援用することによって、保証債務の消滅を主張できる。←保証債務は、主たる債務の消滅に付随する。
 
(6)時効の利益の放棄
時効完成前:利益の放棄は、できない。債権者による濫用を防ぐため。
時効完成後:利益を放棄することができる。
利益を放棄すると、時効の援用権を失う。
利益の放棄の効果は、放棄した者にのみ生じる。他の援用権者には及ばない。
例)主たる債務者が時効の利益を放棄しても、効果は保証人には及ばず、保証人は主たる債務の消滅時効を援用できる。(相対効)
時効の利益放棄後には、新たな時効の進行が開始する。新たな時効が完成すると、それを援用することができる。
 
(7)債務の自認行為
自認行為:時効の完成を知らず、債権の存在を前提とする行為を行うこと。
例)債務の一部弁済、弁済猶予の申込み、など。
時効の利益の放棄ではない(完成を知らないから)が、自認行為の後に時効を援用するのは、信義則上許されない。
自認行為のあとには、ふたたび新たな時効が進行することができる。
 
(8)時効の効力
時効の効力は、起算日にさかのぼる。
所有権の取得時効:時効の起算点から所有権があることになり、時効期間中の果実が時効取得者に帰属される。
債権の消滅時効:元本債権が時効消滅すると、利息債権も消滅したことになる。