民法総則(1)代理

向こうで書けよ、といわれるかもしれませんが。秋になればこういうメモをつくりたくなるものです(夏に作りましたけれど)。
とくに断りがなければ、条文・判例・通説です。「判例によれば」とか「通説の理解では」とかは省略しました。
厳密な正確さにこだわるより、おおまかに割り切る記述を心がけました。
もちろん、このメモは条文・判例・学説を網羅しているものではありません。
対象は、一度おおまかに勉強している学部生程度。法学部生だけれど、興味・関心の対象が「行政法」だったり「ジェンダーと家族制度」だったりで、民法会社法は手っ取り早く押さえたい、という方を想定しています。

今回は、民法総則・代理についてみていきます。

1.代理

(代理行為の要件及び効果)
第99条1項 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
2項 前項の規定は、第三者代理人に対してした意思表示について準用する。

代理とは、代理人のした意思表示の効果を、直接本人に帰属させる制度である。
代理人が、自分の意思表示の効果を本人に帰属させるための権限を、代理権という。
代理権の濫用: 代理人が、本人のためではなく、自分や第三者のために代理行為を行った場合。代理権の範囲内の法律行為ではある(無権代理との区別)。
当該行為は、相手方が善意無過失であれば、有効(93条の類推)。そうでなければ、本人は無効を主張できる。
(1)任意代理と法定代理
任意代理: 本人の意思に基づく代理。
法定代理: 本人の意思とは無関係に、法律の規定によって発生する代理。
 
任意代理では、本人が代理人に代理権を授与する。法定代理では、当然に代理権が発生したり、裁判所の選任などによって代理権が発生する。
(2)代理人と使者
単に口上を伝えるだけの者を、使者という。使者は意思決定を行わない(本人が行う)。
使者には、意思能力が不要。代理人には意思能力が必要。
使者が勝手な内容を伝えた場合には、本人の意思と表示内容の齟齬があるので、錯誤の問題となる。

(3)顕名
顕名:代理意思の表示
代理人のする意思表示は、代理意思(本人のためにするという意思)を示して行う必要がある。
顕名のない意思表示は、相手方が善意無過失の場合には、代理人の意思表示とみなされて、効果は代理人に帰属する。
代理人が直接本人の名で代理行為を行った場合にも、効果は本人に帰属する。

(4)自己契約・双方代理
自己契約:代理人が相手方である場合。
双方代理:代理人が、相手方も代理する場合。
自己契約・双方代理は、禁止されていて、無権代理となる。
ただし、債務の履行・本人があらかじめ許諾した行為については、自己契約・双方代理が有効となる。不当な不利益を被るおそれがないため。同一人が登記申請

(5)復代理
復代理:代理人が、再度代理人(復代理人)を選任すること。
復任権:復代理人を選任する権限。
代理人は、直接、本人を代理する。本人に対して義務を負う。
代理人は、代理人との関係を示す必要はない。
代理人選任:(1)任意代理では、本人の許諾を得た場合またはやむをえない場合に限られる。(→本人と代理人との信頼に基づく代理権授与だから。)
(2)法定代理では、いつでも復代理人を選任できる。
代理人の責任:(1)任意代理では、選任・監督についてのみ責任を負う。(→本人の許諾などがあるはずだから。)なお、本人の指名に従って復代理人を選任したときは、責任を負わない。例外は、『その代理人が、復代理人が不適任又は不誠実であることを知りながら、その旨を本人に通知し又は復代理人を解任することを怠ったとき』。
(2)法定代理では、復代理人の行為につき全責任を負う。ただし、やむを得ない事由による選任のときは、選任・監督についてのみ責任を負う。
復代理があっても、代理人の代理権は消滅しない。代理権が消滅すると、復代理権も消滅する。
復代理権は、代理人の権限の範囲内に限られる。(→代理権を基礎としているから)

(6)代理行為の瑕疵
代理行為での意思表示の瑕疵(詐欺、強迫など)、過失、善意・悪意などの判断は、意思表示を行った代理人について行う(101条1項)。
例)相手方が代理人に詐欺を行った場合: その代理行為は、取り消すことができる。本人が取消権を持つ。(←代理行為の効果は、本人に帰属する。)代理人が悪意であるときには、取り消すことはできない(101条1項)。
例)代理人が相手方に詐欺を行った場合: 相手方は、取り消すことができる。本人の善意・悪意は問わない。
 
ただし、代理人が本人の指図に従って行為を行った場合には、本人は、代理人の善意を主張することができない(101条2項)。

(7)代理人の能力
代理人は、意思表示を行うので、意思能力が必要である。
しかし、行為能力は必要ではない。代理人が未成年者や成年被後見人であっても、代理人になれる。
ただし、本人と代理人との間の代理権授与契約は、代理人が行為能力制限を理由として取り消すことができる。


2.無権代理表見代理

無権代理
第113条1項 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
2項 追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。

無権代理は、代理権を有しない者が代理行為を行ったり、代理権の範囲外の行為を行ったりすることである。
無権代理の効果は、本人に帰属しない。
 
(1)追認
追認:本人が認めた場合には、その効力が帰属する。
ただし、単独行為(相手方のいない行為)については、追認によっても効力は生じない。
追認は、本人が一方的に行うことができる。ただし、相手方に対してするか、相手方がその事実を知るかしなければ、相手方に対抗(主張)することができない。
追認には遡及効があるので、代理行為は行為の時点から本人に行為が帰属していることになる。
無権代理の追認には、法定追認(125条)の適用はない。

(2)無権代理人の責任
無権代理が追認されなかった場合、代理権がないことにつき善意無過失の相手方は、無権代理人に対して、本来の履行・損害賠償のいずれかを選択して請求することができる。損害賠償は、履行利益の範囲となる。
ただし、無権代理人が制限行為能力者であった場合には、この責任追及はできない。

(3)相手方の権利
催告権:無権代理の相手方には、催告権がある。本人に対して相当期間内に追認するかどうかを確答するように催告できる。
本人の確答がない場合には、追認を拒絶したものとみなされる。

取消権:善意の相手方には、取消権がある。本人が追認するまでの間であれば、取り消すことができる。
取り消すと、無権代理人の責任の追及はできなくなる。

(4)無権代理人が本人を単独相続
無権代理人が本人を相続した場合には、本人が自ら法律行為をしたのと同じになるから、法律行為の効果は、当然に無権代理人に帰属する。
三者が、無権代理人を相続した後に本人を相続した場合にも、法律行為は当然に有効となる。
ただし、本人が、相続開始前に追認拒絶していた場合には、無権代理行為の効果は帰属しない。

(5)無権代理人が本人を共同相続
無権代理人が、ほかの相続人と共同で、本人を相続した場合は、法律行為の効果は当然には帰属されない。
追認権は不可分であり、共同相続人全員に帰属するから、相続人全員が共同して追認しなければ、その効力を生じない。

(6)本人が無権代理人を相続
無権代理人を相続した本人は、追認を拒絶することができる。
しかし、117条の無権代理人の責任は追及される。

(7)表見代理
表見代理無権代理において、相手方が、代理人に権限があると信じることに理由がある場合。
表見代理では、相手方が善意無過失の場合に、本人に効果が帰属する。
 
代理権授与の表示による表見代理:本人が、他人に代理権を与えた旨を表示したときは、その代理権の範囲で無権代理人が代理行為を行った場合に、表見代理が成立する。
権限外の行為の表見代理:代理権があるときに、その代理権(基本代理権)を超える行為をした場合に、表見代理が成立する。
代理権消滅後の表見代理:代理権が消滅したときに、その代理権の範囲内で代理行為を行った場合に、表見代理が成立する。なお、代理権の消滅前に、相手方が無権代理人と取引したことがある必要はない。

(8)表見代理の効果
表見代理が成立するとき、相手方は、「表見代理の主張」と「無権代理人の責任追及」のいずれかを選択できる。
無権代理人は、表見代理が成立できることを理由に自己の責任をのがれることはできない。