国道ネタ(6)

前回(id:ameni:20050929)のつづき。資料編なので折りたたみます。
前回ふれた道路法案の、国道の定義についての条文です。

公共道路法案(明治29年第10回帝国議会・政府提出)
第1章 総則
第2条1項 公共道路とは行政庁に於て公衆交通の用に供するものと認定したる道路を謂ふ
2項 此法律に於て単に道路と称するは公共道路を謂ふものとす
第3条 道路の所属種類の要件の有無並に其の一部及区域等は行政庁の認定する所に拠る
第6条 道路を分つて左の6種とす
 1 国道
第7条1項 左の道路は国道とす
 1 東京より神宮、各府県庁所在地、各師団司令部所在地、各鎮守府所在地若くは緊要なる港に達する重要道路
 2 各師団司令部所在地を連結する重要道路
 3 各師団司令部所在地より最近の鎮守府所在地に達する重要道路
 4 各師団司令部所在地より其の師管内の旅団司令部所在地若くは要塞司令部所在地に達し又は各旅団司令部所在地より其の旅管内の衛戍地若くは要塞司令部所在地に達する重要道路
2項 国道より岐れ数府県を連絡する重要道路にして緊要なる港若くは他の国道に達するものは国道となすことを得
3項 第1項各号に記載せる発著点の間に於て重要なる道路数線あるときは其の中に就き選定して国道となすことを得
第8条 前条に記載せるものの外軍事の目的を有する道路は国道とす

道路法案(明治32年第14回帝国議会・政府提出)
第1章 総則
第3条 道路を分つて左の5種とす
 1 国道
第4条1項 国道は左の各号の道路に就き行政庁之を認定す
 1 東京より神宮、各府県庁所在地、各師団司令部、各鎮守府又は枢要の港に達する道路
 2 各師団司令部を連結する道路
 3 各師団司令部より最近の鎮守府に達する道路
 4 各師団司令部より其師管内の旅団司令部若は要塞司令部に達し又は各旅団司令部より其の旅管内の衛戍地若は要塞司令部に達する道路
 5 前各号に記載するものの外軍事の目的を有する重要道路
2項 国道より岐れ数府県庁所在地を経て枢要の港又は他の国道に達する道路は行政庁に於て之を国道となすことを得

これらをみると、大正道路法とそれほどの差異はないようです。
また、「軍事の目的を有する道路」の規定はすでにありました。この点について、貴族院では次のような説明があります。

貴族院道路法案特別委員会 議事速記録第1号(明治32年12月4日)
○都筑馨六君 それから又国道に至って較々軍事上のみの目的を持って居る道路がある、軍事上のみでなくても主として軍事上の目的を持って居る是等のものは国道とするとでも云ふやな矢張主義にならぬといけますまいと思ひます。
【略】
国道に関する費用の補助が前の案は湾に軍事の目的を以て拵へる西洋の所謂「カノンロード」即ち大砲道と云ふものは縦令公衆が偶然通って居っても主たる目的が軍事の目的だから前の法案は国庫から全て出すと云ふのであったのを今度のは他の国道と同じに府県が重なる費用を負担して国は其一部を補助するに過ぎぬ、【略】

しかしよくわからないのは、明治20年代からずっと道路法改正作業を続けていて、その間に軍事国道の制定を予定しておきながら、しかし当時の内務省は、現行法令上の国道に軍事道路を指定しなかったのです。
もともと国道指定の意義は、道路規格の点と管轄官庁の点にあるわけで、そうなると、予算がついて道幅が広がり舗装されるという見込みがないのであれば、国道にする意味は乏しいのかもしれません。国道に指定された道路も、当時はそれほど整備されていたわけではないわけであり、そうならばあえて軍事道路を国道にする必要性は薄かったのでしょう。
 
ところで、前に(9/28)、

しかし師団司令部所在地へ向かう道路はさすがに一級国道には指定されていないようです。

と書きましたが、よく見ると当時の国道16号横浜市横須賀市間ですし、31号は海田市町〜呉市間ですから、佐世保(35号)を含め軍港へ向かう路線が一級指定されているんですよね。さすが田中角栄が「大体は現行法による国道は一級国道となる」とまで言ったほどです。