国道ネタ(5)

前回(id:ameni:20050928)のつづき。
今回はやや退屈かもしれない「資料編」です。
まず、大正道路法制定までの経緯です。
明治21年 公共道路条例、街路新設条例 (閣議未決定)
明治23年 公共道路法 (閣議未決定)
明治29年 公共道路法 (第10回帝国議会衆議院特別委員会可決)
明治32年 道路法 (第14回帝国議会貴族院特別委員会審議未了)
明治35年 道路法 (第17回帝国議会・未提出)
明治36年 道路法 (第18回帝国議会・未提出)
大正8年  道路法 (明治43年道路審議会諮問・成立)

閣議未決定のものについては提出法案になっていないので、その内容は後の資料から推測するしかないのですが、いずれの法案にも国道に関する規定は存在するようです。
明治29年の時点では国道路線を法律によって指定しているようで、内務省の説明では当時の国道の全長は北海道を除いて1875里であり、それを今回の指定によって2720里に延長するとのことです。また、国道の定義として「緊要なる港に達する重要道路」「各師団司令部所在地より最近の鎮守府所在地に達する重要道路」というような文言があるので、大正道路法10条とよく似ています。
また、第17回、18回の帝国議会は解散されたので法案が成案されたものの国会に提出されなかったようです。これ以前の法案もそうだったのですが、当時の道路法案に対しては「命令で規定されるべき内容が法律にかかれている」と批判されていました。たしかに、実際の路線指定は現在でも政令指定ですし、これを法律で規定してしまうと路線変更するたびに国会の議決を経る必要がでるので(予算の関係上、それでもいいのかもしれませんが)、手続きが煩雑になるという当時の批判は、納得できる一面もあります。逆に、大正道路法では内務省告示によって路線指定したために、担当大臣の一存で指定できることになり、これが独裁的であるのではないか、と批判されたことがあります。これについては、昭和27年道路法では政令指定になりましたから内閣の制定が必要となり、担当大臣の専断による指定は防げるわけです*1
 
次に、大正道路法10条2号の「主として軍事の目的を有する路線」についての指定です。内務省告示(大正9年12月25日内務省告示第125号)によって、特1号から特26号までが指定されています。
これらのうちには、普通の国道と接続されていないものもあります。それに、「都市と軍事施設とを連結する道路」は10条1号で既に指定されています。となると10条2号の「軍事の目的を有する」とは、1号でに列挙されていない施設に向かう道路、および道路自体が演習などの軍事目的で使用される道路であるのでしょう。また、この道路が軍が所有する土地の外にあるために、国道に指定された、ということのようです。

第41回帝国議会 衆議院道路法案委員会議録第3回(大正8年2月10日)
○政府委員(堀田貢君) 第一の御尋は認定の範囲方法と云ふ御話でありますが、国道の路線に付きましては、第十条に「東京市より神宮府県庁所在地師団司令部所在地鎮守府所在地又は枢要の開港に達する路線」としてあります。是は今日まで国道として存在して居るものを、事実に於て認定する事にならうと思ひます。大なる変化はないのであります。
次に「主として軍事の目的を有する路線」と云ふことがありますが、是は他の方面より見ますれば、格別重要でないが、軍事上の見地よりすれば、是非共国道として経営して行かなければならぬと云ふやうな線路を指すものでありまして、現に斯う云ふ種類の道路は、内務大臣が指定して、其親切、改築に要する費用は国家の負担とすると云ふやうなことにもなると思ふのであります。而して其認定の方針と申しますると、是は唯今の所どの路線は十条第二号の路線として認定するかと云ふことは決っては居ませぬが、何れ道路法実施の暁には、各種の専門家等の会議を催しまして、其等に諮問をして、さう云ふ事は決めることにならうと思ふのであります。
【カタカナはひらがなに直し、読みやすい場所で改行し、適宜読点を句点に直しました。以下帝国議会会議録につき同様。】

第41回帝国議会 衆議院道路法案委員会議録第4回(大正8年2月12日)
○坂口仁一郎君 師団所在地、鎮守府所在地以外は、格別国県道の必要は無いと云ふ御意見でありますか。
○政府委員(堀田貢君) 御答致します。
唯今の如き場合は、是は多くの場合に於て、矢張其所在地は枢要な地であって、特に此所に掲げなくとも、府県道なり或いは郡道なりとして其道路を改修維持して行く事が出来ることになるだらうと思ひます。若しさう云ふ関係がなくして、而も其等の場所に至る為に、是非とも此所に相当の道路が要ると云ふことになりますれば、それは主として軍事の目的を有する線路と云ふものと致しまして、其道路を改修も致し、又維持もして行く、斯う云ふ考であります。
○坂口仁一郎君 尚ほ御尋しますが、軍事の目的を有すると云ふ事でありますが、是は軍機軍略と云ふ関係も無論含んで居りませう。其他は今の鎮守府所在地と云ふやうなものも、其中に含んで居るかも知りませぬが、更に演習地の関係はどうですか。場所に依ては、演習地は連隊や師団の方で、年々必ず其の場所で演習すると定って居る所もありますが……
○政府委員(堀田貢君) 先日御質問に対して本席より御答致して置きましたが、練習場なり、射的場なり、飛行場等へ行くやうな道は、是は主として軍事の目的の為に使用せらるるもので、公衆の使用は従となって居ると云ふ場合には、此第二項で行く積りであります。毎年一回なら一回演習をやると云ふやうな場合に於ては、是は程度問題になって居りますが、地方として格別其道路に依て利害関係を感じない、而も軍事上は是非共其道路は必要であると云ふことになりますれば、此二項の適用を受けることにならうと思ひますが併し一年に一回とか二回の為に、直ちに之を主として軍事の目的を有する路線としては、実際問題としては起こるまいと思ひます。

また、陸軍次官もこれについて説明しています。

第41回帝国議会 衆議院道路法案委員会議録第5回(大正8年2月14日)
○政府委員(山梨半造君) 是は演習場に行く道に斯う云ふのがあり、又射撃場に行く道に斯う云ふのがあります。又要塞地帯内に在って、単に軍用として使う軍路なるものがあります。さう云ふ種類を主として軍用のものと云ふのであります。

 
***
ここで、それぞれの国道について、整理してみます。
明治9年国道
▼根拠法令・定義 明治9年6月8日太政官達第60号

明治6年8月大蔵省より相達候道路の等級を廃し更に別紙の通相定候条右分類等級各管内限詳細取調内務省へ可伺出此旨相達候事
(別紙)
国道
 一等 東京より各開港場に達するもの
 二等 東京より伊勢の宗廟及各府各鎮台に達するもの
 三等 東京より各県庁に達するもの及各府各鎮台を拘連するもの

▼路線指定根拠法令 明治18年1月6日太政官布達第1号

今般国道の等級を廃し其の幅員は道敷四間以上並木敷湿抜敷を合せて三間以上総て七間より狭小ならざるものとす
 但国道線路は内務卿より告示すべし

▼路線指定 明治18年2月24日内務省告示第6号

本年1月太政官第1号を以て国道之儀布達相成候に付該線路別表之通相定候条此旨告示候事

▼法令廃止 明治9年太政官達第60号・明治18年太政官布達第1号は大正8年4月10日法律第58号にて廃止

道路法大正8年4月10日法律第58号)
第65条 左に掲ぐる法律は之を廃止す
 4 明治9年第60号達
 5 明治18年第1号布達
 6 明治20年勅令第28号

▼1号線 東京より横浜に達する路線
▼東京〜大阪間 2号:東京より大坂港に達する路線
伊勢神宮 9号:東京より伊勢宗廟に達する路線
 
大正8年国道
▼根拠法令 道路法大正8年4月10日法律第58号)

第8条 道路を分ちて左の5種とす
 1 国道

▼定義 道路法

第10条 国道の路線は左の路線に就き主務大臣之を認定す
 1 東京市より神宮、府県庁所在地、師団司令部所在地、鎮守府所在地又は枢要の開港に達する路線
 2 主として軍事の目的を有する路線

▼路線指定根拠法令 道路法施行令(大正8年11月4日勅令第460号)

第3条 国道の路線の認定又は其の変更若は廃止を為したるときは官報を以て之を公布すべし

▼路線指定 (10条1号)大正9年4月1日内務省告示第28号

国道の路線左の通認定す

▼路線指定 (10条2号)大正9年12月25日内務省告示第125号

国道の路線左の通認定す

▼法令廃止 大正8年法律第58号は昭和27年6月10日法律第181号にて廃止、大正8年勅令第460号は昭和27年12月4日政令第479号にて廃止

道路法施行法(昭和27年6月10日法律第181号)
(旧法の廃止)
第1条 道路法大正8年法律第58号。以下「旧法」という。)は、廃止する。

道路法施行令(昭和27年12月4日政令第479号)
附則
2 左に掲げる勅令は、廃止する。
 2 道路法施行令(大正8年勅令第460号)

▼1号線 東京市より神宮に達する路線
▼特1号線 千葉県千葉郡津田沼町大字大久保より印旛郡千代田村大字畔田に達する路線 
▼東京〜大阪間 2号:東京市より鹿児島県庁所在地に達する路線(甲)
伊勢神宮 1号:東京市より神宮に達する路線
 
昭和27年国道
▼根拠法令 道路法(昭和27年6月10日法律第180号)

第3条2号 道路の種類は、左に掲げるものとする。
 1 一級国道
 2 二級国道

▼定義・路線指定根拠法令 道路法

一級国道の意義及びその路線の指定)
第5条1項 前条第1号の一級国道とは、国土を縦断し、横断し、又は循環して全国的な幹線道路網の枢要部分を構成し、且つ、都道府県庁所在地(北海道にあつては、支庁所在地。以下同じ。)その他政治・経済・文化上特に重要な都市を連絡する道路で、政令でその路線を指定したものをいう。
 
二級国道の意義及びその路線の指定)
第6条1項 第4条第2号の二級国道とは、一級国道とあわせて全国的な幹線道路網を構成し、且つ、左の各号の一に該当する道路で、政令でその路線を指定したものをいう。
 1 都道府県庁所在地及び人口10万以上の市(以下これらを「重要都市」という。)を相互に連絡する道路
 2 重要都市と一級国道とを連絡する道路
 3 港湾法(昭和25年法律第218号)第42条第2項に規定する特定重要港湾、同法附則第5項に規定する港湾又は建設大臣の指定する重要な飛行場若しくは国際観光上重要な地と一級国道とを連絡する道路
 4 二以上の市を連絡して一級国道に達する道路

▼路線指定 (一級国道一級国道の路線を指定する政令(昭和27年12月4日政令第477号)

一級国道の路線名、起点、終点及び重要な経過地は、別表のとおりとする。

▼路線指定 (二級国道二級国道の路線を指定する政令(昭和28年5月18日政令第96号)

二級国道の路線名、起点、終点及び重要な経過地は、別表のとおりとする。

▼法令廃止 昭和27年12月4日政令第477号、昭和28年5月18日政令第96号は昭和40年3月29日政令第58号にて廃止

一般国道の路線を指定する政令(昭和40年3月29日政令第58号)
附則
一級国道の路線を指定する政令等の廃止)
2 次に掲げる政令は、廃止する。
 1 一級国道の路線を指定する政令(昭和27年12月4日政令第477号)
 2 二級国道の路線を指定する政令(昭和28年5月18日政令第96号)

▼1号線 起点:東京都中央区 終点:大阪市
▼東京〜大阪間 1号
伊勢神宮 23号:起点: 四日市市 終点:宇治山田市
 
指定路線の実際について道路法令集さまに詳細が掲載されています。

*1:それでも当時の国会質問では、ワンマン総理が好きな道路を指定したらどうなるのか、という質疑がなされたことがあります。道路法制定当時の総理は吉田茂です。