ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還

ファンタジー三部作の完結編。
戦闘場面はさすがに観ごたえがありました。軍団対戦をここまで見事に描いた作品は初めてでした。大将の前口上、敵集団への威嚇、個人の剣術とチームプレイの美しさ、どれをとっても非常によくできていて、軍記物としては文句ありません。ムマキル(象)の場面で、絶望的なほどに強い象をレゴラスが軽業で倒すシーンが特に印象的でした。レゴラスは前作でも、盾をスケボーのように使うシーンがありましたが、エルフの身の軽さを非常に上手に表現していますね。
では一方で物語としてはどうかといえば、やっぱり原作を端折ってしまった形跡がたくさん見られます。映画では思い切ってシナリオの独自性を高めればよかったのですが、「指輪物語」のストーリーを大きくいじれなかったのでしょう。というわけでサルマンの顛末もファラミアのその後も、そしてラストの旅立ちの意味も、描かれずじまいでした。指輪は登場人物が多いので、細部を端折られるとすぐに消化不良を感じてしまうのですよ。原作もそれほど詳細に描かれているわけではないのですけれどもね。
また、何度も続くクライマックスは、やっぱり圧巻です。シリーズ通して観ないと伝わりにくいのですが、フロドがいよいよ指輪を捨てようとする場面から、仲間の再会、帰郷、最後の旅立ちの場面まで、まさにコンピュータRPGのラスボス戦からエンディングまでに味わう感激です。一仕事なしおえたという満足感と成長感、そして一つの時代が終わり新しい時代がはじまる革命期に当事者として身を投げてるという緊張感がたまりません。
 
さて、ファンタジーの生命は人物の描写にあると私は思うのですが、その点ではやや不満が残るところもあります。まず、会話がちょっと単調です。それぞれの人物の立場や知識はきちんと会話に反映されているのですが、性格があまり反映されていない気がします。辛辣な皮肉を飛ばすひねくれ物とか、受け手の調子を狂わせるほどにマイペースなお調子者とか、融通が利かない騎士とか、そういう定番キャラを配してもよかった気がします。ロード・オブ・ザ・リングでは、ホビットのサムがどんどん忠実な友人に成長する点が目立つ程度です。
次に、キャラ内部の葛藤があまり見られない点が気になりました。自己の二面性と闘い続けるゴラムや執政に悩まされるゴンドールなんかは重厚な味を出していましたが、一方で、アラゴルンたちはただ戦闘を繰り返すだけですし、ガンダルフももっと賢者のオーラを出してほしかったところです。これらは原作に抱いていた不満そのままですね。
そして最後に、アラゴルンとアルウェンの絡みが唐突だった点は、やっぱり不満です。わざわざ盛り立て役としてエオウィンを登場させているわけですから、ここはもう少し描写がほしかったところです。
 
全体としては、指輪の世界が忠実に映像にされている点に満足しました。ピーター・ジャクソンとスタッフの、卓越した手腕と強い思い入れが伝わってきました。