試験と過去問と参考書

司法試験予備試験の問題から。

〔第1問〕
制限行為能力者に関する次のアからオまでの各記述のうち,誤っているものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。
ア.未成年者は,単に義務を免れる法律行為について,その法定代理人の同意を得ないですることができる。
イ.未成年者又は成年被後見人を相手方として意思表示をした者は,法定代理人がその意思表示を知る前は,その未成年者又は成年被後見人に対してその意思表示に係る法律効果を主張することができない。
ウ.代理人が保佐開始の審判を受けたときは,代理権は消滅する。
エ.成年被後見人は,行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときであっても,その行為を取り消すことができる。
オ.未成年の子が婚姻をするには,原則として父母の同意を得なければならないが,成年被後見人が婚姻をするには,その成年後見人の同意を要しない。
 
1.アイ 2.アオ 3.イウ 4.ウエ 5.エオ

この問題に対して、過去問題集の感じで解答解説を作ると、こんな感じになるでしょう。いずれも、条文そのままの知識です。

ア:正 第5条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
イ:正 第98条の2 意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に未成年者又は成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、その法定代理人がその意思表示を知った後は、この限りでない。
ウ:誤 第111条 代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。
 2号 代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。
エ:誤 第21条 制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない
オ:正 第738条 成年被後見人が婚姻をするには、その成年後見人の同意を要しない。

最終的な仕上げ学習の段階では、このような解説が必要なのですが、初心者にとってこの手の解説は、条文の暗記を強要されている感じがして、少し不安になります。(まあ、この問題の程度の条文であれば、覚える必要があるのですが。)

あるいは、もうすこし親切な問題集だと

制限行為能力については、「詐術はアウト」、「家族法所定の行為(婚姻・縁組・遺言など)は大体できる」と覚えておくとよいでしょう。そうすると、正解肢だけが残ります。

みたいな感じになります。「公式化」や「瞬殺肢の指摘」は、この手の問題の解説でよく使われる手法ですね。選択肢ごとの難易度の判断は、初学者には難しいです。今回の問題だと、イが意思表示の問題で、ウが代理の問題ですので、行為能力を学んだばかりの段階では難しいです(しかしこういう問題で差がつくのはそういうタイプの融合問題ですから、やがては練習が必要です)。
ただ、「試験には過去問演習が必要だ」とは言っても、いきなり選択肢の吟味から始めるような学習だと、いまひとつ効率が良くないのも確かです。
 
ここで、過去問の肢を並べて文章にして、参考書(テキスト)っぽくしてみます。

第1章 制限行為能力者
未成年者は、単に義務を免れる法律行為について、その法定代理人の同意を得ないですることができる。未成年者又は成年被後見人を相手方として意思表示をした者は、法定代理人がその意思表示を知る前は、その未成年者又は成年被後見人に対してその意思表示に係る法律効果を主張することができない。
代理人が後見開始の審判を受けたときは、代理権は消滅する。なお、保佐開始の審判を受けたときは、代理権は消滅しない。成年被後見人は、行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。未成年の子が婚姻をするには、原則として父母の同意を得なければならないが、成年被後見人が婚姻をするには、その成年後見人の同意を要しない。

過去問の記述を並べて文章にしただけです。実に読みにくく、頭に入りにくい参考書です。ですが、「過去問直結」を宣伝文句にしていることも多いこの「参考書」だと、「マスターすれば過去問が解ける」ようにはなるんですね。実際、世の中に出回っている試験*1対策参考書の大半は、こんな感じなんです。私も感じたのですが、なぜかどの本も、ある条文の特定の場所を強調していたりすることがあって、よく調べてみると過去問の誤肢ヒッカケを参考書が後追いしていたんですね。
でもって気になる点は、この手の「参考書」で勉強するのって、いきなり過去問を読むという勉強法と、それほど大差がないんですよ。つまり、知識が体系立たないので、効率があまりよくないんです。

*1:予備試験民法レベルのものではみあたりませんが、資格試験ではよくみられます。